1958年の今日は、クリス・コロンバス監督の誕生日。この日にちなんで作るのは、監督の大ヒット作品に出てくるお料理。
J.K.ローリングによる児童文学ハリー・ポッターシリーズを映画化した、『ハリーポッターと秘密の部屋』に登場する一皿です。
『ハリーポッターと秘密の部屋』に登場する料理
校則破りの罰を待つハリーが目にしたお料理とは
今回再現する料理が登場するのは、小説版だと以下の部分。
校則を破ったハリーとロンが、マクゴナガル先生に罰を言い渡された後の夕食シーンに「シェパード・パイ」の名前が出てきます。
かわいそうなハリー。これから罰が待っていると思うと、本来なら美味しいはずのお料理を目の前にしても食欲はわかないですよね。
ハリーとロンはがっくりと肩を落とし、うつむきながら大広間に入っていった。ハーマイオニーは「だって校則を破ったんでしょ」という顔をして後ろからついてきた。ハリーは、シェパード・パイを見ても思ったほど食欲がわかなかった。二人とも自分のほうが最悪の貧乏くじを引いてしまったと感じていた。
引用:J.K.ローリング 『ハリー・ポッターと秘密の部屋』 Kindle 版
映画版だと上のシーンは描かれていなんですが、代わりにラストの学期末の宴のシーンに登場。
ホグワーツ城の大きなテーブルにずらっと並んだごちそうの中に、シェパーズ・パイと思われるお料理を見ることができますよ。
シェパーズ・パイとは
シェパーズ・パイとは、羊や牛のひき肉で作ったミートソースにマッシュポテトを載せてオーブンで焼いた英国の料理。
「Shepherd's Pie(羊飼いのパイ)」という名前ではありますが、もともと羊飼いたちが食べていた料理だから……という訳ではなく、サンデーロースト※で残った肉の再利用メニューとして生まれた「コテージ・パイ」が元のようです。
※チキンやポークなどの塊肉をオーブンで焼いたローストにグレイビーソースをかけ、付け合わせの野菜などといただく日曜日のごちそう料理
このコテージパイについても起源が定かではないのですが、じゃがいもがイギリスとアイルランドで安価な食物として普及し出した18世紀頃に編み出された料理なんだそう。
「シェパーズ・パイ」という呼び名が登場するのは19世紀に入ってからで、1854年発行の『The practice of cookery and pastry』という当時のレシピ本にも名前が載っているのを確認できます。
ロースト肉どころか、ボイルした肉でもOKとの記述があります。ようは残り肉ならなんでもいいってことですね。
ただ、この中で「シェパーズ・パイ」の名前で調理法が紹介されているものの、使う肉については「なんでもお好きなように」といった感じなのが面白いところ。特に羊の肉を指定している訳ではなく、余りもののロースト肉ならなんでも良しと。
この適当さ、いかにも家庭料理といった感じで嫌いじゃありません。むしろ好き。
シェパーズ・パイについては家庭ごとにさまざまな作り方があり、今日でも羊でも牛でもどっちでもOKという感じで捉えられているのは、こうした成り立ちによるところが大きいのかもしれませんね。
参考:http://thompsonhouse.ca/2017/11/cottage-pie-history/
https://www.merriam-webster.com/dictionary/shepherd's%20pie
材料の考察
さて、そんな風に長く愛されてきたシェパーズ・パイですから、ネット上を探せば英語でも日本語でも美味しいレシピがいくらでも手に入ります。
とはいえ、ここは再現料理のブログ。ただ美味しく作るだけでは芸がないので今回も設定などを考えつつ、めんどくさく掘り下げていきましょう。
まずはじめに。ホグワーツは魔法と魔術を教える学校ではありますが、その前に生徒たちが集団生活をする「ボーディングスクール(寄宿学校)」だということは押さえておきたいポイント。
学校なので、そこで出される料理は「スクールミール」つまり「給食」なんですよね。当たり前っちゃ当たり前なんですけど。
ホグワーツにおいて生徒や先生方が食べる食事は城の厨房で働く屋敷しもべ妖精たちが作っているようですが、いずれにせよ給食と呼ばれるものの類であることは間違いありません。
となれば、中身の具については子どもたちが食べやすく、そして栄養価が高いもので考えられているはず。
ちなみに現地イギリスのボーディングスクールでもシェパーズ・パイは人気のメニューらしく、ランチやディナーによく登場しています。
学校給食であるなら「子どもらにいかに野菜を食べさせるか」は、やはり重視されそう。ということで、スクールミールに絞ってシェパーズ・パイのレシピを見てみると、給食で出されているものはグリーンピース・にんじん・コーンのいわゆるミックスベジタブルが入ったタイプがよく見受けられます。
ミックスベジタブルでないにしても、小さく切ったにんじん・グリーンピースは入っていそうですね。
特にグリーンピース。イギリスの食卓に「Pea(グリーンピース)」はよく登場しますし、映画ラストの学期末の晩餐でも山盛りのグリーンピースが登場していたので、入っていない方が不自然な気が。これは外せないなあ。
繰り返します「グリーンピースは外せない」。
でも、これを読んでくださっている方の中にも、グリーンピースが好きじゃない方はいらっしゃいますよね。
多分というか絶対それゆえだと思うんですが、青臭い独特のにおいや、ぽそぽそした食感が嫌われる理由なんだろうなと。
けれどもご安心を。先日作った古代ローマ時代のスープ料理でも使いましたが、最近の冷凍グリーンピースは格段に美味しくなっています。
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独特の香りもミートソースのような味の濃いソースと食べる料理であれば目立つことはありませんし、調理の際にちょっと工夫すればぷちっと弾けるみずみずしい豆の感じを味わえます。
方法について詳しくはレシピでご確認を。
そして肉。先程お伝えしたように羊だろうが牛だろうがどちらでもシェパーズ・パイを名乗れるようですが、ホグワーツ魔法魔術学校ではどちらを使っているのだろう?
食材については魔法でいくらでも調達できるようなので、なんとなくですが、割合はその時々で変わっていてもおかしくなさそうです。
であれば、羊と牛半々で作ってみるのはどうだろう。欧米だと合い挽き肉自体あまり一般的ではないですし、色々と混ぜて作るのは魔術の儀式っぽくもある……ような。
最後に風味付けに使うハーブ。美味しくなるので理由なしでも入れるんですが、魔女・魔法使い向けの食事であればその意味も考えたいところ。
ハーブについては香り高さから、魔除けなどの意味で用いられてきたものも少なくありません。
1960年代の歌手・サイモン&ガーファンクルが歌って有名になった民謡『スカボロー・フェア』には、「パセリ、セージ、ローズマリーにタイム」とハーブの名前を並べた少し奇妙なリフレインがあります。
これは何かというと、元の民謡が作られた当時流行していた黒死病、つまりペストから逃れるためのおまじないだったとのこと。
魔除けの力が強いと信じられていたハーブの名前を唱えて、厄災から逃れようとしていたようなんですね。
おお、もう魔法学校的な給食に加えるハーブとして百点満点ではなかろうか。ということで、香り付けに使うハーブも決定。
ではさっそく、実際に材料を揃えて作ってみましょう。
参考:https://www.downside.co.uk/downside-school-catering
https://interactive.wttw.com/playlist/2017/07/27/lore-scarborough-fair
魔法魔術学校風シェパーズ・パイを作ってみよう
ハリーポッターと秘密の部屋|魔法魔術学校風シェパーズ・パイ
材料(Φ26×5cmのキャセロール1個分)
- マッシュポテト
じゃがいも 中4-5個(肉と同量の400g程度)
牛乳 150ml
バター 20g
塩こしょう 適量
- ミートソース
ラム薄切り肉 200g
牛ひき肉 200g(ラム・牛の割合はお好みで)
玉ねぎ 中1個
セロリ 1/2本
にんじん 1本
冷凍グリーンピース 100g
にんにく 1片
カットトマト 1/2缶
小麦粉 大さじ1
ウスターソース 大さじ1
トマトケチャップ 大さじ1
☆ドライパセリ 小さじ1
☆ドライセージ 小さじ1/4
☆ドライローズマリー 小さじ1/4
☆ドライタイム 小さじ1/4
塩こしょう 適量
作り方
- マッシュポテトの準備
- じゃがいもは皮をむき、小さめにカットして耐熱容器に並べる
- 大さじ1杯程度の水(分量外)をまぶし、ラップをして600Wのレンジで5分ほど加熱する
- 一旦取り出し、全体を混ぜてさらに5分ほど加熱
- じゃがいもが柔らかくなったらマッシャーでしっかり潰す
- 熱いうちにバターを加えて攪拌し、牛乳も加えてなめらかになるまで混ぜたらマッシュポテトは完成
- ミートソースの準備
- 玉ねぎ・セロリ・にんじん・にんにくは全てみじん切りにしておく
- ラムの薄切り肉を使う場合は細かく刻んでおく
- 熱した鍋に少量のサラダ油(分量外)を引き、肉を炒める
- 肉に火が通ったら一旦取り出し、残った油でにんにくを炒める
- にんにくの香りが出てきたら、玉ねぎ・にんじん・セロリも加えて5分ほど炒める
- 野菜がしんなりしてきたら肉を戻し、☆のハーブを加えて全体を混ぜ、2分ほど炒める
- 小麦粉を加えて粉気がなくなるまで炒めたら、カットトマト・ウスターソース・ケチャップを加えて5分ほど弱火で煮る
- 火からおろして塩こしょうで味を整え、グリーンピースを冷凍のまま加えればソースの完成
- 仕上げ
- オーブンを220℃に予熱しておく
- キャセロールや大きめのグラタン皿などにミートソースを敷いて平らにならす
- 上からマッシュポテトを被せて平らにし、フォークで全体に筋状の模様をつける
- オーブンの上段にセットし、20分ほど焼いて焦げ目がつけば出来上がり
ポイント
- 冷凍グリーンピースは加熱済みで売られているため、冷凍のまま加えると火が通り過ぎずぷちっとした食感を楽しめます
食後のヒトコト
マッシュポテトに香ばしく焦げ目がついて、いかにも食欲をそそる見た目。今回は牛だけでなく肉の匂いの強いラムも使っているので、より「お肉を食べている」という感じがします。
そのままではクセが強いハーブとラムの個性がお互いを引き立てあい、えも言われぬ美味しさ。
火が入りすぎないよう冷凍のまま加えたグリーンピースもちょうど良い具合。ぷちぷちの食感がアクセントになっています。
クリーミーなマッシュポテトも相まって、いくらでも食べられそう。これは小さな魔法使いのタマゴたちも喜ぶごちそうになりますね。
1人用のグラタン皿に分けて作ることもできますが、ホグワーツでの宴のように、大きなキャセロールでどーんと出せば特別感もひとしお。
週末のごちそうにも、ホームパーティーに出す一皿としてもおすすめです。ハリーもきっと、学年末の宴ではたっぷりのシェパーズ・パイでお腹を満たしたはず。
さて、自分が入るならどの寮がいいかなあなんて思いながら、今回もごちそうさまでした。
こちらのレシピは、イギリス発の大手オンライン教育系出版社Twinkl様の「本好きに?読書習慣をつける環境づくりと子供向けアクティビティ17選」でご紹介いただきました。記事には他にも楽しみながら日常の中に読書を取り入れる素敵なアイディアが満載! ぜひ併せてご覧くださいませ。