1844年の10月22日はベル・エポックを代表する女優、サラ・ベルナールが生まれたとされる日。
この日にちなんで再現するのは彼女の好物だったという、華やかなタンバル仕立ての料理にヒントを得た一皿です。
大女優サラ・ベルナールが愛した華やかな一皿
エスコフィエのレシピにも登場するタンバル仕立ての料理
ミュシャやロートレック、ラリックといった芸術家たちのミューズであり、フランスのベル・エポックを象徴する存在でもあるサラ・ベルナール。
今回再現を試みるのは、稀代の舞台女優サラ・ベルナールが好んだという「TIMBALE DE RIS DE VEAU(リ・ド・ヴォーのタンバル)」という料理です。
リ・ド・ヴォーのタンバルは『風立ちぬ』の再現料理の際にも登場した近代フランス料理の父、オーギュスト・エスコフィエの店で出されていたもの。
料理がきっかけで二人の間に友情が生まれ、その友情は大女優が亡くなるまで続いたというのですから、まさに歴史的な一皿と言えますね。
参考:https://www.menufretin.fr/2020/06/10-choses-que-vous-ignorez-sans-doute-sur-auguste-escoffier/
風立ちぬ/エスコフィエによる料理の手引き|クレソンとポテトのサラダ
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エスコフィエの料理書『Le Guide culinaire』にも登場する「タンバル」。
平たくいえば円錐形の型の中に煮込みなどを詰めて成型した料理なんですが、サラが好んだタンバルは、リ・ド・ヴォー(仔牛の胸腺肉)とヌードルを詰め、トリュフのスライスにフォワグラのピュレを添えた豪華な一品だったそう。
贅沢な食材を惜しみなく使った、華やかで手の込んだ一皿。
まさに時代に愛された大女優にぴったりの料理ですね。
材料・調理法の考察
さて、サラ・ベルナールも好きだったというこのタンバル。
再現するならマカロニを並べてカップ状に形作り、その中にリ・ド・ヴォーとセップ(ポルチーニ)をクリームで煮たクラシックな煮込みを注ぐのがおそらく一番「らしい」形だと思われます。
でもトリュフやフォワグラ抜きで再現するとしても、日本国内では手に入りにくい食材が多すぎる……。
まずはリ・ド・ヴォー。乳離れしていない仔牛の胸腺であるリ・ド・ヴォーは、ミルクのような甘い香りと、ふんわりまったりした舌触りが特徴的。
とても美味しいのだそうですが、現地でも希少な部位のため、代わりとして腎臓を使う人もいるようです。
ただ、日本ではこれも手に入りにくい。
腎臓については味はあっさりめのレバー、食感は砂肝っぽいと聞いたことがあるので、鶏のレバー+砂肝を採用することにして。
お次はセップ。ポルチーニといった方が通りがいいでしょうか。香りの高さからイタリアではきのこの王様とも呼ばれていますね。
ナッツのような芳しい香りと濃厚なうま味が震えるほど素晴らしいので、生のポルチーニなら本ブログのテーマである「なるべく手に入りやすい食材で」を無視してでも加えたいところです。
けれどスーパーなどで見かけるドライポルチーニだと、相当いいやつでもない限り香りはほぼ望めない……。
香りが期待できないなら、乾燥ポルチーニを使う理由は薄くなるなあ。
日本には三大うま味成分のうち、グルタミン酸とグアニル酸の2つを併せ持つうま味の塊「しいたけ」があるので、マッシュルームと組み合わせて使うのがいいかも。
参考:https://www.umamiinfo.jp/richfood/foodstuff/mushroom.html
和食の代表的な食材だからといって、洋の料理に使えないということもないですし。
干ししいたけならうま味成分のグアニル酸量も飛躍的に上がっていますから、少量でより複雑な味わいにできそうです。
きのこはマッシュルームと干ししいたけで決定。
それから煮込みを入れるマカロニタンバル。これは細めで真っ直ぐな形状のマカロニだと形を作りやすいので探すことにします。
あとはクリームと香りづけのブランデー、ナツメグなどがあれば材料はOK。さっそく作っていきましょう。
サラ・ベルナール好みのタンバルを作ってみよう
ベル・エポックを感じるクラシックフレンチ|サラ・ベルナール好みのタンバル
マカロニタンバルの成型用に、セルクルもしくはシリコンのパンケーキ型などがあると便利です
材料(2人分)
- クリーム煮用
鶏レバー 100g
砂肝 150g
牛乳(レバーの下処理用) 適量
玉ねぎ 中1/8個
マッシュルーム 5-6個
干ししいたけ 1個分
水(しいたけの戻し用) 1/2カップ
生クリーム 1/2カップ
バター 20g
ブランデー 大さじ1
ナツメグ ひとふり
塩こしょう 適量
- マカロニタンバル用
筒状で真っ直ぐな形状のマカロニ セルクルの大きさに合わせて
コンソメキューブ 1/2個
作り方
- クリーム煮の準備
- 干ししいたけは水で戻しておく
- レバーは血などを洗い落とし一口大にカット、砂肝は青白い膜の部分を削ぎ落としてスライスしておく
- 2を牛乳に30分ほど浸し、流水で洗ってざるに上げておく
- 玉ねぎ・干ししいたけはみじん切り、マッシュルームは1/4カットにしておく
- フライパンでバターを熱し、レバーと砂肝の表面に焼き色をつけて別皿に取り分けておく
- 5のフライパンで玉ねぎを炒め、しんなりしたら干ししいたけを加えてさらに炒める
- 干ししいたけの戻し汁・ブランデーを入れて5分ほど弱-中火で煮る
- 生クリーム、マッシュルームと肉類を加えてひと煮立ちさせ、塩こしょう・ナツメグで味を整えたら出来上がり
- マカロニタンバルの準備
- マカロニをコンソメスープで硬めに茹でる(スープは捨てず取っておく)
- セルクルの内部にオリーブオイル(分量外)を塗り、マカロニを立ててぐるりと並べる。底にもマカロニを寝かせて詰め、ケースを作る
- フライパンにセルクルごと2を並べ、スープを少量はって蓋をし、3-4分ほど蒸し煮にする
- 仕上げ
- セルクルからタンバルを外して皿に置き、軽く温めたクリーム煮を注げば完成
ポイント
- セルクルなどがなければ、アルミホイルを折ってリング状にした簡易的な型でも作れます
食後のヒトコト
きのこのうま味がしっかり出たコクのあるクリームソースにまったりとしたレバー、砂肝のコリっとした食感もいいアクセント。
思った通り、ちょっぴり加えた干ししいたけが実に良い仕事をしてくれています。
マッシュルームだけでは出せない濃厚なうま味がプラスされて、パスタに絡めて食べるとなんとも言えず美味しい……。
マカロニタンバルに詰めたデコラティブな見た目も、いかにもフレンチという感じ。
ちょっと食べにくいのは難点ですが、特別感がありテーブルが華やぐので、おもてなしなどにも良さそうです。
なおタンバル仕立てのオードブルはレストランなどで見かけますが、マカロニで形作る今回のようなタイプは料理が生まれたフランス・イタリアでも現在珍しいのだそう。
参考:http://www.renardsgourmets.com/timbale-de-macaroni-a-la-financiere/
料理にも流行がありますし、時代とともに食材や作り方はアップデートされていくものだと思いますが、廃れていくままなのは悲しいですね。
失われつつある料理にもっと目が向けばいいなと思いつつ、今回もごちそうさまでした。