日に日に秋の気配が強くなる今日この頃。
少しずつ涼しさを増す季節に再現するのは、長野まゆみの小説『三日月少年漂流記』に登場する料理です。
長野まゆみ著『三日月少年漂流記』に登場する少年たちのお昼ごはん
「少年たちが選ばなかった」レバースープのお弁当
今回再現する料理が登場するのは、少年たちが自動人形「三日月少年」を追う小さな冒険の途中で立ち寄る埠頭での一場面。
「あの店の献立は卵とスープと麵麭の各種を自由に組み合わせできるようになっているんだ。」
「へえ、」
「卵は茹卵と炒卵とオムレツがあって、スープはクリイムスープかレバースープ、麵麭は蜂蜜つき黒麵麭かバタつき麵麭があるんだ。」
縞模様の天幕の前まで来て、水蓮と銅貨は献立表を眺めながら組み合わせを決めた。水蓮は売店の台に硬貨を並べて、
「僕は茹卵とクリイムスープと黒麵麭がいゝや、銅貨はどうする、」
「僕は、オムレツとクリイムスープとバタつき麵麭。」
引用:長野まゆみ『三日月少年漂流記』河出書房新社
主人公である二人の少年・水蓮と銅貨は海沿いの広場にある売店で、スープや卵料理が選べるお弁当を買って昼食にしようとしています。
複数の組み合わせを選べるお弁当、楽しそうですね。スープは特に毛色の違う2種類から選べるようですが、二人ともクリームスープしか眼中にない様子です。
物語の中で水蓮は大人びた少年として描かれているものの、味の好みは子どもらしくレバーは苦手みたい。
この後のシーンでも、レバースープなんてあり得ない的な会話が続きます。
確かにクセがある食材だけれど、ハーブと一緒に料理するとえも言われぬ美味しさになるのになあ。
よし、レバーの名誉のためにも今回は「少年たちが選ばなかった」レバースープのお弁当を再現してみましょう。
材料・調理法の考察
少年たちには人気がなかったようですが、商品として売られているのだから不味いもののはずはなし。
でも、レバーを使ったスープって日本ではそんなにポピュラーじゃありませんよね。
薬味をたっぷり使わないと臭みが全面に出てしまうためだと思いますが、他の国の料理ではどうだろう……。
台湾料理にはレバーをはじめとする臓物を煮込んだ薬膳系のスープがあるけれど、バタつきパンやオムレツの組み合わせでお弁当にしているのでちょっとイメージとは違うかも。
となると、やっぱり洋風のスープが雰囲気に合いそうです。
臓物系が食材としてよく登場するのは、ヨーロッパだとイタリアかドイツあたりかな?
ざっくりな印象で調べてみると、あったあった! ドイツにぴったりのスープ料理がありました。
その名はレバークネーデル・ズッペ。
レバーを使ったドイツの肉団子スープ「レバークネーデル・ズッペ」
レバー入りの団子スープという名のそれは、ドイツだけでなく周辺の中欧諸国でも食べられている伝統料理。
牛レバーに古くなったパン・ハーブ類を加えて練った肉団子に、牛肉の出汁をかけていただくスープ料理です。
参考:https://germanculture.com.ua/main-dishes/leberknodelsuppe-german-liver-dumpling-soup/
作中に登場するお弁当のメインはスープだと思われるので、肉団子が入ったボリュームのある汁物ならイメージにぴったり。
レバーの食感やクセが苦手でも、細かくしてハーブで風味を付けた肉団子なら食べられる人も多そうです。商品として売られるお弁当なのだから、広く受け入れられる要素は大事。ありですね。これで行こう。
日本だと加熱用でも牛レバーは手に入りにくいので豚か鶏のレバーを使うことになりますが、大きく雰囲気は損なわないはず。
パンや粉多めの本場のクネーデルに寄せすぎると練り物感が強く出るので、今回はひき肉も加えてふわっと柔らかな肉団子にしましょう。
あとはパンと卵料理を添えれば一式揃いますね。
ではでは、さっそく調理開始。
レバークネーデル・ズッペを作ってみよう
三日月少年漂流記|レバークネーデル・ズッペのお弁当
材料(4人分)
- スープ用
玉ねぎ 1個
にんじん 1/2本
セロリ 1/3本
コンソメキューブ 1個
水 1L程度
- クネーデル用
豚もしくは鶏レバー 150g
豚ひき肉 100g
牛乳(レバーの下処理用) 適量
卵 1個
パン粉 25g程度
片栗粉 大さじ1-2程度
☆ドライパセリ 小さじ1/2
☆ドライマジョラム 小さじ1/2
☆レモンの皮 小さじ1/2
塩 ひとつまみ
こしょう 適量
- その他の具材
バターを塗った食パン お好みで
ゆで卵 お好みで
作り方
- スープの準備
- にんじん・セロリ・玉ねぎはそれぞれみじん切りにしておく(玉ねぎの半量はクネーデル用に残す)
- 鍋にサラダ油(分量外)を引き、刻んだ野菜を炒める
- 野菜がしんなりしたら水を注ぎ、コンソメキューブを加えて煮込む
- クネーデルの準備
- レバーは血などを洗い落として牛乳に30分ほど浸し、再度流水で洗ってざるに上げておく
- レバーを細かくカットし、ひき肉・卵・玉ねぎ・☆のハーブ類・塩こしょうを加えてよく練る
- パン粉・片栗粉を加えて固さを調整し、5-6cm大の団子にまとめる
- 仕上げ
- スープを沸かし、団子を入れて10分ほど茹でる
- 出たアクをすくってスープをきれいにし、塩こしょうで味を整えたら出来上がり。器に盛り付け、ゆで卵とバタつきパンも添えて召し上がれ
ポイント
- レモンの皮については、市販されているチューブ状のペーストを使うと便利です。ペースト自体に塩分が含まれているので、その場合は塩を控えめに。
食後のヒトコト
ごくごく柔らかく仕上げた肉団子がスープを吸って、さらにふんわり食感に。レバーの臭みもなく、ハーブと合わせたことで独特のクセが深い味わいに変化しています。
ひき肉だけのものに比べてまとまりにくいレバー入り団子ですが、スープ料理なので多少形がいびつでも、崩れても問題ないのは嬉しいところ。
崩れてスープに溶け込んだ部分を刻み野菜と一緒にすくって食べれば、口いっぱいにうまみが広がります。
少年たち、レバーのスープも美味しいですよ……。
彼らがいつかレバースープも試してくれるといいなあなんて思いながら、今回もごちそうさまでした。