模範的な英国式ティー&トースト

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裏切りのサーカス|スパイ気分で味わう模範的な英国式ティー&トースト

今回再現するのは、東西冷戦時代のスパイの活躍を描いた『裏切りのサーカス』に登場するティー&トーストの軽食。

「英国式の・正しい」方法で作った濃厚なミルクティーに、カリッと香ばしく焼き上げたバタートーストの組み合わせは相性抜群。本作鑑賞のお供にも最適です。

冷戦時代のスパイを描いた作品に登場する料理とは

いかにもな英国らしさ溢れる!ティー&トーストの軽食

バターを乗せたトーストと

イギリスの諜報機関、MI6での訓練経験もあるジョン・ル・カレによって書かれた『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』を原作とし、難解との評価を受けることも多い本作。

難解とされる理由については時系列や人間関係が入り組んだ構成と、セリフ外の部分、例えば画面内のちょっとした映像にも込められている情報量がとにかく多いためでしょう。

説明不足でいたずらに難しくなっている訳ではないのですが、ながら見は禁物。少し目を離していると、あっという間についていけなくなるのは事実かなと。

そんな本作に印象的に登場する食べ物が「トースト」。

劇中ではパーティーのシーンなども描かれていますが、トーストについては冒頭のブタペストのカフェでのシーンと、外務省内のオフィスでレイコン外務次官と諜報機関「サーカス」幹部が対面するシーンの2回も登場するので、印象に残っている方も多いのではないかなと思います。

材料・調理法の考察

バターをたっぷり塗り広げたトースト

今回まず再現するのは、レイコン次官が自分のオフィスでふんぞり返りながらぱくついていたトースト。

彼が食べていたような、薄切りの食パンをこんがり焼いてバターを塗ったトーストは「bread and butter(バタつきパン)」としてイギリスの児童文学作品などにも登場するイメージですが、ティータイムにトーストというのも今やだいぶクラシカルな組み合わせです。

ポップアップトーストから飛び出す、こんがり焼けたトースト

そもそも最近のイギリスでは食パン自体の消費量がめっきり減っているらしく、食糧生産や食品基準などを管轄する「Defra(環境・食糧・農村地域省)」が本作の時代とちょうど同じ1974年から行っている食糧事情調査によれば、1週間に購入されるスライス済み食パンの量が74年に一人頭609gだったものが、2021年にはなんと160gにまで落ち込んでいるとのこと。

輸送技術の進歩などで手に入る食品が増え、食生活が多様化したからだと思われますが、トースト離れはかなり進んでいるんですね。

『裏切りのサーカス』の時代では紅茶のお供として地位を確立していたのでしょうが、時代が変われば食生活も様変わりするものだなあと少ししんみり。

魚焼きグリルで焼かれるトースト

前置きが長くなりましたが、イギリス式のトーストについては薄切り食パン(薄ければ薄いほど良い……なんていうのもよく聞く話)の表面をゴールデンブラウンに色づくまでカリッと焼き上げつつ、中はソフトな状態を保つのが理想とされます。

少し濃いめの焦げ色が付くように焼くため、オーブントースターだと中まで火が通りすぎてパサつきがちになることも。

そこで今回は、強い火力で表面を炙ることができるグリル(魚焼きグリル)にご登場いただきましょう。

焦げやすいのでよそ見厳禁ではあるものの、一気に加熱できるので、理想的なトーストを素早く作ることができますよ。

真っ白なカップになみなみと注がれる紅茶

もう一つの主役として用意するのは、英国のティータイムといえばの紅茶。

普段は淹れ方についてそれほど意識することはないかもしれませんが、今回は「英国式の・正しい」抽出方法を探っていきたいところです。

ちなみに日本紅茶協会による理想的な紅茶の抽出時間についてはティーバッグで1〜2分、葉の大きなリーフティーでも3〜4分だそうですが、「英国式」の紅茶の場合、抽出時間はティーバッグでも3〜5分推奨というのが一般的な様子。

抽出時間、結構長いですよね。

ティーバッグで抽出される紅茶

彼の地の水質は日本と違って硬水だし、ミルクティーとして飲むから濃く淹れるのも当然? と思ってしまいそうですが、イギリスも全土が硬水という訳ではありません。

ロンドンなど南東部については硬水・超硬水なのですが、ヨークシャーなど北部やスコットランドをはじめとして、軟水の地域もむしろ多め。

ただ硬水でも軟水でもベストとされる抽出時間に差は無く、牛乳なしでも濃いめに淹れて飲む傾向があるよう。英国式では水の硬度やミルクの有無に関わらず、しっかり濃厚なものが良しとされる感じなのでしょう。

英国における水の硬水度分布図
英国における水の硬水度マップ
参照:https://www.bristan.com/hard-water-map

なお、紅茶鑑定士などがテイスティングを行う際の紅茶の抽出方法には現在ISO-3103という国際規格があり、ISO-3103での抽出時間は6分と決められています。

テイスティングや審査用の抽出方法ですから一般的な淹れ方とは違いますが、ISO-3103の元となったBS 6008という規格は1980年に英国規格協会が定めたもの。

紅茶については「濃くあるべきもの」という意識が根付いていそうなのは、ここからも窺える感じがしますよね。

参考:https://www.gov.uk/government/statistical-data-sets/family-food-datasets

https://www.tea-a.gr.jp/make_tea/

https://finestenglishtea.com/how-to-make-english-tea/

https://www.yorkshiretea.co.uk/our-teas/how-to-make-a-proper-brew

https://www.independent.co.uk/life-style/food-and-drink/news/how-to-make-the-perfect-cup-of-tea-british-standards-institution-issues-new-guide-10050692.html

イギリス式のティー&トーストを作ってみよう

裏切りのサーカス|スパイ気分で味わう模範的な英国式ティー&トースト

材料(2人分)

  • バタートースト用
  • 10枚切りもしくは8枚切りの食パン_2枚

  • バター_20g

  • ママレードなどお好みのスプレッド_お好みで

  • 紅茶用
  • 紅茶葉_6g程度(イギリスのティーバッグなら2袋、日本製ならおよそ3袋分)

  • 水道水_400-450ml程度

  • 牛乳_お好みで

  • 砂糖やはちみつ_お好みで

作り方

  • 紅茶の準備(ティーバッグを使う場合)
  • やかんに水道水を注いで火にかけ、ボコボコ音がするまでしっかり沸騰させる(沸かし直しではなく、必ず新しく水を注いで使うこと)
  • ティーポットとカップに湯を注ぎ、温めておく
  • ティーポットに茶葉を入れ、湯を注いだらすぐに蓋をして3-5分置く
  • スプーンでポットの中を軽く混ぜてからティーバッグを取り出す
  • カップに紅茶を注ぎ、お好みで牛乳や砂糖を加えて出来上がり
  • バタートーストの準備(魚焼きグリルを使う場合)
  • グリルを弱火で1分ほど余熱しておく
  • 食パンをセットして2分ほど弱火で焼き、焼き色が付いたら裏に返してさらに1分半ほど焼く
  • グリルから取り出したら、焼き網などの上に乗せて1分ほど放置する(トーストから出る蒸気を逃してカリッとさせるため)
  • レイコン次官のように、バターをパンの耳ぎりぎりまできっちり塗り広げたら完成。お好みでジャムなどを付け、紅茶と共に召し上がれ

ポイント

  • 今回はティーポットを使っていますが、マグカップで淹れる場合も手順はほぼ同じ。マグにお湯を注いだら、お皿などで蓋をして蒸らすと濃く美味しい紅茶に仕上がります。

食後のヒトコト

日本で一般的な2g入りティーバッグの1.5倍である、3gの茶葉を使って長めに蒸らした紅茶は香りも素晴らしく超濃厚。紅茶のタンニンの心地よい渋みがミルクとマッチし、互いの持つコクや甘みを引き立てています。

外はカリッと香ばしく、中はふんわりソフトなパンにバターをたっぷり塗ったトーストとも相性抜群。

ほんのり塩気があってミルキーなバタートーストをひと齧り、そしてコクのあるミルクティーを一口すれば目の覚めるような美味しさで、まさにリフレッシュに最適な組み合わせ。

美味しさに気を取られて重要なシーンを見逃してはいけませんが、英国らしさ満点のこんな軽食をお供にすれば、本作をより深く味わえそうですね。

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宵闇

作者の心情や時代背景などを頭でっかちに考察しつつ、物語や歴史に登場する料理を作っています。お仕事のご依頼等については、お問い合わせフォームもしくはinfo@saigengohan.comよりどうぞ。

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