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旅する哲学者・ニーチェのジェノベーゼリゾット

1844年の10月15日は、哲学者フリードリヒ・ニーチェの生まれた日。

この日にちなんで作るのは、ニーチェが一時期滞在していたイタリア・ジェノヴァ伝統のソースを使ったリゾットです。

円熟期のニーチェを作った旅と食

旅する哲学者・ニーチェ

幼少期から身体が弱かったニーチェ。スイスのバーゼル大学で古典文献学を教えていた頃に体調不良は決定的なものとなり、やむを得ず教授職を辞すことになります。

その後ニーチェは在野の哲学者となり、療養のため気候の良い土地を旅しつつ執筆活動に専念することに。

夏は冷涼なスイスのシルス・マリアで、冬は地中海沿岸のジェノヴァのような温暖な土地でといったように、季節ごとに過ごしやすい場所を選んでいたそうです。

残念ながら健康状態が大きく改善することはなかったようですが、有名な『ツァラトゥストラはかく語りき』をはじめ、彼の生涯でもっとも多くの著作が書かれたのが旅をしていた時期。

この旅がなければ、哲学者・ニーチェ円熟期の思想が生まれることはなかったかもしれませんね。

参考:https://plato.stanford.edu/entries/nietzsche/

ジェノヴァ滞在中のニーチェが習った料理とは

さて、そんなニーチェ。療養地滞在中の食については自分でまかなうべく、各地で料理を習っていたそうで。

ジェノヴァ滞在中には下宿のおかみさんから手ほどきを受けていたらしく、マスターした料理の一つとして「リゾット」の名前が挙げられています。

ひとくちにリゾットと言ってもいろいろで、その種類については明らかにされていないものの、彼がジェノヴァで料理を習っていたことは確か。

ジェノベーゼソースを用いたメニューを味わっていた可能性も大いにあります。

そんなわけで、今回のメニューは素直に「ジェノベーゼ(ジェノヴァ風)」リゾットなんですね。

参考:https://www.gutenberg.org/files/53620/53620-h/53620-h.htm

材料・調理法の考察

ちなみに「ジェノベーゼ」というとバジルペーストを使った料理を想像する人も多いと思いますが、現地でジェノベーゼとされるソースは全くの別物。

バジルは使われておらず、牛肉に玉ねぎ・にんじん・セロリなどを加えて煮込んだ、いわゆるミートソースのことを指します。

なぜジェノベーゼ=バジルペーストのソースとなってしまったかについては話が脱線しすぎるのでここでは触れませんが、以下の記事が詳しいのでご興味のある方はどうぞ。

本来のジェノベーゼにバジルが入っていないことが分かったところで、調理法について考えましょう。

先ほどもお伝えしたように牛肉と野菜を使ったミートソースなので材料自体はシンプルなものの、牛ブロックを使うのでいかんせん調理時間がかかるのがネック……。

肉がほろほろになるまで現地の人は最低3から5時間、じっくり作る人だとなんと8時間もかけて煮込むらしいんですが、さすがにちょっと長いなあと。

肉の繊維の食感を残したいからひき肉に変えるのも違うし、圧力鍋を使わなくても作れる方法はないものか。

そうだ、日本にはヨーロッパに無い食材「薄切り肉」があるじゃないか!

私たちがごく普通にスーパーなどで購入する薄切り肉は、箸文化のある東アジア圏以外だとけっこうレアな存在。

上記のように海外在住の方はその入手に苦労されているようですが、これなら繊維の食感を残しながら煮込み時間を大幅に短縮できる……。

もちろんブロック肉をたっぷり使ったものと全く同じとはいきませんが、このブログは「なるべく手に入りやすい材料で、できるだけ作りやすく」がテーマ。

割り切りも大事ということで、さっそく調理開始です。

ジェノベーゼリゾットを作ってみよう

リゾットに対してソースは多めにできるので、
残りはパスタなどで味わうのもいいですね

旅する哲学者・ニーチェのジェノベーゼリゾット

材料(2-3人分)

  • ジェノベーゼソース用
  • 牛薄切り肉 300g

  • 玉ねぎ 1個

  • にんじん 1/2本

  • トマト 1/2個

  • セロリ 1/3本

  • オリーブオイル 大さじ3

  • 白ワイン 50ml

  • ☆塩 ひとつまみ

  • ☆粗挽き黒こしょう 適量

  • ☆ローリエ 1枚

  • ☆チリペッパー 適量

  • ☆ナツメグ ほんの少量

  • リゾット用
  • 生米 1合分

  • お湯 600ml

  • ジェノベーゼソース 1カップ+1/2程度

  • オリーブオイル 大さじ1+1/2

  • コンソメキューブ 1/2個

  • 粉チーズ 適量

  • 塩こしょう 適量

作り方

  • ジェノベーゼソースの準備
  • 薄切り肉は一口サイズにカットしておく
  • にんじん・セロリはみじん切り、玉ねぎは薄めのスライス、トマトは角切りにしておく
  • 鍋でオリーブオイルを熱し、玉ねぎ・にんじん・セロリを炒める
  • 野菜がしんなりしたら牛肉・白ワイン・トマト、ひたひた程度の水も加えてひと煮立ちさせる
  • ☆の調味料を加え、1時間ほど弱火で煮込めばソースの完成
  • リゾットの準備
  • フライパンでオリーブオイルを熱し、生米を炒める(米は洗わずそのまま)
  • 米に透明感が出て、ぱちぱちとはぜてきたら湯とコンソメを入れて15分ほど弱-中火で加熱する
  • ジェノベーゼソースを加えて全体を混ぜ、さらに5分ほど煮る
  • 米がスープを吸い、わずかに芯を感じる程度になればOK。塩こしょうで味を整え、粉チーズを振りかけて出来上がり

ポイント

  • 粘りが出てしまうので、リゾットを煮る際には混ぜすぎNG。鍋底から大きくすくうように混ぜるのがおすすめです。

食後のヒトコト

しっとりしつつアルデンテに仕上がったお米に肉と野菜のうま味が凝縮したソースも加わって、一口食べると舌にふわっと甘みを感じます。

ブイヨンとチーズで作るシンプルなリゾットも好きですが、こんな具だくさんのリゾットもいいですね。

しっかりお肉と野菜も入って栄養もあるだろうし、ソースの煮込みに時間はかかっても工程自体は難しくないので、療養目的で訪れた客人に教える料理として選ばれてもおかしくなさそう。

ジェノベーゼソースもリゾットも現地ではごく一般的な料理ですから、ニーチェも本当にこの組み合わせで食べていたかもしれません。

早熟の天才として24歳で大学教授となったものの、病気や激しい失恋などに翻弄され続けたニーチェ。

波乱の人生を送ったニーチェの心を料理が少しでもあたためていたらいいなと思いながら、今回もごちそうさまでした。

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  • この記事を書いた人

宵闇

作者の心情や時代背景などを頭でっかちに考察しつつ、物語や歴史に登場する料理を作っています。お仕事のご依頼等については、お問い合わせフォームもしくはinfo@saigengohan.comよりどうぞ。

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