スティーブン・キングの原作を映画化した傑作人間ドラマ、『ショーシャンクの空に』。劣悪な環境でも希望を忘れず、強く生きる人間の姿を描いた映画にちなんで作るのは、本作の主人公・アンディにまつわる料理です。
彼が希望の象徴として口にした海辺の町「シワタネホ」の名物料理は、白身魚にライムの香りはじける解放感たっぷりの味わい。白く続く砂浜と、青い青い海を思いながら召し上がれ。
アンディが夢見た海辺の町・シワタネホの名物料理とは
セビチェに似たシーフードマリネ「ティリタス・デ・ペスカド」
今回作る料理は、無実の罪でショーシャンク刑務所に投獄された主人公のアンディが受刑者仲間のレッドに語る夢の場所、「シワタネホ(ジワタネホ)」にまつわるもの。
ある事件によって希望を失いかけたアンディはレッドに、「記憶のない海で残りの人生を過ごしたい」とつぶやきます。
「記憶のない海」とは、メキシコでの太平洋の別の呼び名。
その太平洋に面した海辺の町・シワタネホに落ち着いてホテルを開き、古いボートを買って修繕したり、客を乗せて釣りに出たりする日々を過ごしたいと打ち明けたのです。
刑務所を出たところで、今さら普通の人生を歩めるはずもないと諦めているレッド。それは夢でしかないとアンディをたしなめるように言うのですが、アンディは堅い意志を持っている様子。
淡々と海辺での暮らしを語る彼の口調からも、にじみ出る強く静かな意志を感じ取れるようなシーンでした。
さて、アンディが強い憧れを抱く「シワタネホ」を有するメキシコ南部のゲレロ州には、「Tiritas de pescado(ティリタス・デ・ペスカド)」という魚を使った名物料理があります。
メキシコのシーフード料理というと魚介マリネの一種「セビチェ(セビーチェ)」が有名ですが、このティリタス・デ・ペスカドもセビチェにかなり似た料理です。
現地では名物として出しているレストランも多いようなので、彼が夢を叶えたならきっと口にする機会も多いはず……。
イメージも固まったところで、ティリタス・デ・ペスカドの作り方を確認していきましょう。
材料・調理法の考察
ティリタス・デ・ペスカドは、細切りにした生の魚をレモンやライム果汁でマリネし、玉ねぎや唐辛子・コリアンダー(パクチー)・オレガノなどと和えていただく料理。
メキシコのセビチェでよく使われるトマトやきゅうりなどは入りませんが、作り方もセビチェとよく似ています。
セビチェと違うのは材料を長い時間マリネせず、ぱぱっと和えて仕上げるというところ。
もともと漁師料理らしいので、長く漬け込んだり彩りの良い野菜を加えたり……というよりも、いかに短時間で作れるかに力が入れられている感じがします。
シンプルで美味しそうだし、気の置けない仲間同士の素朴な食事という雰囲気も感じられてイメージにぴったり。
本場のティリタス・デ・ペスカドについてはティラピアやカジキがよく使われるようですが、ティラピアはもちろん、日本だと生食できるカジキは手に入りにくいですね。
ティラピアは白身が美味しいスズキの仲間なのでここは臨機応変に、鯛やヒラメなど手に入りやすい白身魚の刺身を使う方向でいきましょうか。
参考:https://jaguarrestaurant.com/differences-in-cuisine-between-latin-countries-and-the-hot-debate-about-ceviche/
https://www.eatperu.com/what-is-ceviche/
ティリタス・デ・ペスカドを作ってみよう
ショーシャンクの空に|記憶のない海辺で味わう白身魚のカクテル
材料(たっぷり2人分)
ヒラメやタイなど白身の刺身_300g
玉ねぎ_1個
ライム_1個
パクチー_3-4枝
青唐辛子_1本ほど(お好みに合わせて)
オリーブオイル_大さじ1
ドライオレガノ_小さじ1
塩_ふたつまみ
こしょう_適量
トルティーヤチップス_お好みで
作り方
- 玉ねぎは繊維に対して垂直に包丁を入れて薄くスライスし、パクチーと青唐辛子はみじん切りにしておく
- 刺身は細切りにして絞ったライムの果汁と塩・こしょうを加えて混ぜ、10分ほどマリネする
- 食べる直前に残りの材料を加えてよく混ぜれば完成。トルティーヤチップスを添えて召し上がれ
ポイント
- 玉ねぎが苦手なら繊維を断ち切るように包丁を入れてごく薄くスライスし、よく水にさらしておくのがおすすめ。刺激や辛味が和らぎます。
食後のヒトコト
淡白な白身の魚に、ライムの香りと酸味が効いています。ぴりっとした青唐辛子の辛みに、玉ねぎのサクサクした感じもいいアクセント。
間に食べるトルティーヤの香ばしさも相まって、お酒がとっても進みそうです。
ネタバレになるので多くは申しませんが、彼らがこの料理を食べるなら、きっと長い長い時間をかけて語り合いながらのはず。
長いこと飲んでもおつまみが足らなくならないよう、レシピの量はたっぷり2人分ということにしていますが、前菜的にいただくなら4人分はゆうにある量かなと。人数に応じて半量で作るなど調整するといいと思います。
それにしてもスティーブン・キング、ホラー作品にもしっかり家族愛や人間愛を入れ込んでくる作家ですが、直球のヒューマンドラマも素敵ですね。
抜けるような空と海にどこまでも続きそうな白い海岸を思い浮かべながら、今回もごちそうさまでした。