今回作るのは、今月末にテレビ放送が予定されている宮崎駿監督の『魔女の宅急便』に登場する、ニシンとかぼちゃのパイからヒントを得た料理。
劇中では届け先の少女に不評でしたが、青魚のうま味にかぼちゃと卵の優しい味が加わった奥深い味わい。おつまみに最適な一品ですよ。
上品な老婦人のご自慢「ニシンとかぼちゃの包み焼き」とは
キキもお手伝いした、ニシンとかぼちゃを包み込んだパイ料理
美味しそうな食べ物がたくさん登場する本作ですが、この「ニシンとかぼちゃの包み焼き」はおそらく多くの人の印象に残っているはず。
孫娘の誕生日に自慢の手料理を贈りたいマダムから配達の依頼を受け、キキもお手伝いして作ったものですね。
お魚を象ったデザインが可愛らしいパイ料理、残念ながら届け先の少女には不評でしたが、その後の物語の流れにも大きく関わってくるなかなか重要なアイテムだなと思います。
材料・調理法の考察
ところで、SNSなどで劇中のニシンのパイはイギリスのコーンウォール地方の超ニッチな郷土料理・スターゲイジーパイが元ネタだ……という噂が広まっていますが、これにはどうも根拠がない様子。
私も宮崎監督のインタビューやジブリ関連の記事などを一通り確認しましたが、「スターゲイジーパイをイメージした」という話を見つけることはできませんでした。
おそらくですが、ニシンを使ったパイという点と、届け物をした先の孫に嫌われている→美味しくない料理なのだろうという想像に、同じくニシンを使ったある種ゲテ物的な扱い(これもひどい話だなと思いますが)のスターゲイジーパイが結びついてしまったというところかなあと。
それではこのニシンのパイ、いったいどこの国の料理が元ネタなんでしょう。
まず考えられるのが、本作に登場する架空の街・コリコのモデルとして大いに参考にしたとジブリの公式サイトにも明記されている、スウェーデン料理という線。北欧諸国ではニシンがよく食べられており、当然スウェーデンにもニシン料理がたくさんあります。
参考:https://www.ghibli.jp/qa/
ただスウェーデンでは劇中に登場するような、英米でよく見られる包み焼きスタイルのパイはメジャーではないはず……。
確認のため、「Paj(スウェーデン語でパイの意味)」のキーワードで現地のレシピサイトなどを調べてみましたが、マッシュポテトを載せたコテージパイ系か、キッシュのようにパイ生地を敷いたタイプはよくあるけれど、包み焼きタイプはあまり無い様子です。
もちろん物語の中の料理ですし、老婦人のお好みが英米スタイルのパイだったらそれで話はおしまいなんですが、作品が公開されたのは1989年のこと。
今でこそコテージパイやキッシュもパイ料理の一種だと認識されているものの、映画が公開された当時の日本ではどうだったでしょう。キッシュがいつ頃から日本に浸透したかという点を示す資料が見つからないので憶測ですが、認知度はそれほど高くなかったんじゃないかな?
であれば、あえて英米スタイルのパイが採用されたのかも。
その後の物語に少なからず関わるアイテムであるとはいえ、説明を挟まないと絵的にパイだという説得力が薄いキッシュ系ではなく、「誰がどう見てもパイ」な見た目が採用されたのも不思議では無い気もします(単純に、画面映えする可愛らしいデザインにしやすいからという理由だったりして……)。
さて本題。作品を鑑賞する上で、どうしても歴史や地理的な影響を考えてしまう割とめんどうくさい再現料理マニアとしては、見た目だけ劇中のパイに寄せるのも面白くない。
という訳で今回は、『魔女の宅急便』の舞台として明言されているスウェーデン式のスタイルで「ニシンとかぼちゃのパイ」を作ります。
なかなか手に入りづらいニシンはイワシやサバなどの青魚に置き換えるとして、メインの具はコテージパイ系でもキッシュタイプでも行けそうですね。
焼き色のつき方が違うので別に焼くことになりそうですが、お魚の飾りを作るなら、パイ生地を使うキッシュタイプがいいかな?
劇中のパイにも飾りとして使われていたと思しきオリーブは、具としても入れるとより美味しくなりそう。
もろもろ固まってきたので、今回もさっそくスタートです。
青魚とかぼちゃのパイを作ってみよう
魔女の宅急便|青魚とかぼちゃのパイ
材料(22cmのパイ皿1枚分)
- パイ生地用
冷凍パイシート_2枚(10×18cmサイズの角型タイプの場合)
- フィリング用
イワシフィレ_4枚(2尾分)
イワシやサバなど、青魚の水煮1缶に置き換えてもOKかぼちゃ_1/8個
じゃがいも_中1個
玉ねぎ_1/2個
ブラックオリーブ_12粒ほど
ドライディル_小さじ1/2
塩こしょう_適量
- 卵液用
卵_2個
牛乳_150ml
塩_ひとつまみ
- その他の材料
シュレッドチーズ_ひとつかみ(30g程度)
粉チーズ_適量
作り方
- フィリングと卵液の準備
- 玉ねぎはみじん切り、じゃがいも・かぼちゃはスライスし、ブラックオリーブも輪切りにしておく
- 塩をして5分ほど置いたイワシの水気をキッチンペーパーで拭き、こしょうを振ってグリルかフライパンで表面に焼き色を付けておく
- フライパンでオリーブオイル(分量外)を熱し、玉ねぎ→かぼちゃ・じゃがいもの順にしんなりするまで炒める
- イワシをほぐしてディルとブラックオリーブの半量を加え、ざっと一混ぜしておく
- ボウルで卵を溶きほぐして牛乳・シュレッドチーズ・塩を加え攪拌し、粗熱の取れた4を加えてざっくり混ぜればフィリングの完成
- パイ生地の準備
- オーブンを200℃で予熱しておく
- パイシート2枚をつなぎ合わせてめん棒で伸ばし型に載せ、型の底や側面に押しつけて生地を敷き詰める
- 型の上からめん棒を転がし余分な生地をカットし、フォークでまんべんなく穴を開けておく
- 3に重し(タルトストーンもしくは、小さめの耐熱皿などでも可)を載せ、オーブンの中段で10分ほど空焼きする
- 仕上げ
- 空焼きしたパイ生地にフィリングを流し入れ、シュレッドチーズと粉チーズを散らしてオリーブを飾り、200℃のオーブン上段で25分ほど焼けば出来上がり(焦げそうならアルミホイルを被せて焼き色の調整を)
ポイント
- 余ったパイ生地で魚型を作る場合、パイ生地そのままの状態だと膨らみすぎてしまうので、めん棒でよく伸ばしてから使うのがおすすめです。
食後のヒトコト
生のイワシでもしっかり下処理すれば臭みは出ませんが、青魚特有のクセはありますから、ディルはしっかり効かせるのがおすすめ。
ブラックオリーブもイワシの味を引き立ててくれるので、飾りとしてだけでなくたっぷり加えるとアクセントに。より奥深い味で美味しくいただけると思います。
老婦人のお孫さんのようなティーンの女の子には不人気かもしれませんが、おつまみにもぴったりで、大人受けは相当良さそう。
いつの日か少女が大人になった時、おばあちゃんの味として作っていたらいいな……なんて思いながら、今回もごちそうさまでした。