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シャーロック・ホームズシリーズ|海軍条約文書事件の解決を祝う朝食

1854年の1月6日はコナン・ドイルが生み出した世界的な名探偵、シャーロック・ホームズの誕生日とされる日。

この日にちなんで再現するのは、ホームズシリーズの短編『海軍条約文書事件』に登場する朝食のメニューです。

『海軍条約文書事件』に登場するハドソン夫人手作りの朝食

ホームズたちの朝食はチキンカレーが主役?!

今回再現するのは、物語の最後の最後で登場する朝食のメニューとして出されている料理。

行方不明となっていた海軍の機密文書をホームズが無事発見し、朝食の席で事件の種明かしをしつつ依頼人に返す……というラストシーンに登場するものです。

テーブルの準備が出来て、私がベルを鳴らそうとした時、ハドソン夫人が紅茶とコーヒーを持って入ってきた。数分後、彼女はフードをかぶせた朝食を三つ運んできた。そして私たちは全員テーブルについた。ホームズは空腹で、私は興味津々で、フェルプスは落ち込んでがっくりしていた。

「ハドソンさんは機転が利くね」ホームズがカレー味チキンの皿の覆いを取って言った。「彼女の食事はそれほど種類は多くないが、スコットランド女性みたいに朝食の工夫がいい。君は何だ?ワトソン」

「ハムエッグだ」私は答えた。

「そりゃいい!何を食べますか、フェルプスさん、 ―― カレーのチキンですか卵ですか、それとも自分のを?」

引用:コンプリート・シャーロック・ホームズ『海軍条約文書』https://221b.jp/h/nava-13.html

自らの過失から大切な文書を盗み出されてしまい、傷心の外務省高官パーシー・フェルプスに差し出されたのは、「Curried chicken(チキンカレー)」とハムエッグの朝食。

当然ながら食が進まない彼ですが、ある方法で目の前に置かれた機密文書を目にして大喜び。

ラストの見どころなので詳しくは書きませんが、ホームズのイギリス人らしいウィットに富んだ返し方が見事でした。

それにしてもフェルプス氏、その後の朝食はきっと最高に美味しいものだったでしょうね。

材料・調理法の考察

さて、今回もどんな料理だったのかを考察開始。

ドイルが生きたヴィクトリア朝時代といえば、『Mrs Beeton's Book of Household Management(ビートン夫人の家政読本)』が大ベストセラーとなっていた頃です。

当時の中流層以上のご婦人必読の一冊で、家事指南本としてだけでなくレシピ本としても超有名なので、朝食を用意したハドソン夫人も一度は参考にしていたかなあと。

ちなみにハドソン夫人については作中でホームズに、「Her cuisine is a little limited(彼女は料理のレパートリーが少ない)」だなんて言われています。お料理の腕は悪くなさそうでも、献立のバリエーションについては乏しかったようですね。

シチュータイプのチキンカレー

少ないレパートリーの中から朝食にカレーを出すなんて、ハドソン夫人の料理って意外に個性的? とも思いそうですが、当時カレーはイギリスで大流行していた料理。

夫人の食の好みが特に尖っていたということでもなくカレーは朝食にも当たり前に登場していたため、料理については当時の定番的なメニューを作るので問題なさそうです。

そんなわけで、今回チキンカリーとハムエッグの作り方はヴィクトリア朝時代の定番本、『ビートン夫人の家政読本』のレシピを参考にしてみましょう。

まずはチキンカリー。

日本と同じくカレー好きな国として知られるイギリスで初めて「カレー粉」の広告が登場したのが、1784年の話。

通常は何種類ものスパイスをブレンドする手間のかかるカレーも、これを使えば手軽に作れると、カレー粉は瞬く間に大ヒット商品に。カレー粉を使った料理も、家庭向けの料理本で紹介されるようになっていきました。

ビートン夫人の著作でも例外なくカレー粉を使う実に多くのレシピが掲載されており、鶏肉を使ったカレーもいくつか確認できます。

特徴的なのが、その多くにりんごが具として加えられていること。日本のカレーだと隠し味に使っても、具材として加えることは少ないと思いますが、りんごはローストチキンやターキーの付け合わせとしてもおなじみの果物です。

メインの具となる鶏肉についてもサンデーローストで余った肉を使うことを想定しているようなので、ごく当たり前の具材という感じなのでしょうね。

※丸鶏や豚などの塊肉をオーブンで焼いたローストを食べる、日曜日のごちそう料理のこと。

ハムエッグについてはビートン夫人のレシピに朝食向けとしてポーチドエッグを載せた「FRIED HAM AND EGGS」が紹介されているので、そちらを参考に。

もろもろ出揃ったので、今回もさっそく作っていきましょう。

以下別ブログの記事でも付け合わせとしてりんごが登場。

他のビートン夫人レシピも気になるなら併せてどうぞ!

参考:https://housefoods.jp/data/curryhouse/know/w_history03.html

http://www.bl.uk/learning/timeline/item126721.html

チキンカリーとハムエッグの朝食を作ってみよう

シャーロック・ホームズシリーズ|海軍条約文書事件の解決を祝う朝食

材料(2人分)

  • チキンカリー用
  • 鶏胸肉 150g

  • 玉ねぎ 1/2個

  • りんご 1/4個(紅玉や陸奥、ジョナゴールドなどの酸味強めな品種がおすすめ)

  • カレー粉 大さじ1

  • 小麦粉 大さじ1

  • 酢 大さじ1/2

  • コンソメ 1/2個

  • バター 20g

  • ナツメグ ひとふり

  • 塩こしょう 適量

  • ごはん お好みで

  • ハムエッグ用
  • イングリッシュマフィン 2個

  • 卵 2個

  • ハム 2枚

  • 少量の酢を加えた水 適量

  • その他の材料
  • 紅茶もしくはコーヒー お好みで

作り方

  • チキンカリーの準備
  • 玉ねぎは薄切り、りんごは小さめにカットしておく
  • 鶏肉は塩こしょうをしてフライパンで焼き、手で裂いてほぐしておく
  • 鍋にバターを引き、玉ねぎ・りんごを炒める
  • 3がしんなりとしてきたら、カレー粉・小麦粉を加え1-2分ほど炒めて香りを引き出す
  • 具材が被るくらいの水とコンソメ・酢を入れて中火にかける
  • 沸騰したらアクをすくい、弱-中火で15分ほど煮る
  • 6に鶏肉を加えて15分ほど煮込み、ナツメグを振り入れる。必要なら塩こしょうで味を整えて出来上がり
  • ハムエッグの準備
  • イングリッシュマフィンは横半分に切り、ハムと一緒に軽くトーストしておく
  • スープカップなどに卵を割り入れ、酢を加えた水を卵がしっかり被るように注ぐ
  • 卵黄に爪ようじなどで穴を開け、蓋をせず600Wの電子レンジに50秒ほどかける(加熱が足りない時には10秒ずつプラスして様子をみる)
  • 卵白が白く固まったら水気を切り、器などに取り出しておく
  • マフィンの上にハム→卵の順に載せれば出来上がり

ポイント

  • ポーチドエッグを加熱する際は、必ず一つずつで。欲張ってまとめて加熱するときれいな形になりません。
  • ヴィクトリア朝の昔から現在まで、欧米の多くの国では米は野菜感覚でボイルして調理することが多いため、よりヴィクトリアン気分を味わいたいならごはんはジャスミン米やバスマティライスなど長粒種の米をマカロニのように茹でて添えるのもおすすめ。それはちょっと面倒だなーという場合には、炊飯器の早炊きモードなどで固めに仕上げて添えるのもいいですね。

食後のヒトコト

ハムステーキにアップルソースを合わせたり、ローストポークに付け合わせたりするのも好きですが、カレーの具というのも悪くないですね。

程よい甘みと爽やかさで、スパイスの風味が引き立ちます。

辛みはほぼなく、スパイシーすぎず上品で穏やかな味わいのカレーのため、朝食にもぴったり。濃く淹れた紅茶ともよく合うなあ。

なお、今回は紅茶もこの時代からあるメーカーのもので……と思ったので、1886年創業の「Taylors of Harrogate(テイラーズオブハロゲイト)」のヨークシャーゴールドを選んでいます。

これを飲むと他の紅茶が薄く感じてしまうほど濃いミルクティー向きのお茶ですが、癖がなく素直な味なので、ストレートで食事と合わせるのにも最適。

「スプーンが立つほど濃い」気取らない、でも美味しい普段づかいの英国紅茶を飲みたいなら特におすすめです。

名探偵の気分でヴィクトリア朝時代らしい献立と紅茶を味わいながら、今回もごちそうさまでした。

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  • この記事を書いた人

宵闇

作者の心情や時代背景などを頭でっかちに考察しつつ、物語や歴史に登場する料理を作っています。お仕事のご依頼等については、お問い合わせフォームもしくはinfo@saigengohan.comよりどうぞ。

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