今回再現するのは豪華客船タイタニックの沈没前日、1912年4月14日の晩餐を締めくくるデザートとして出されたお菓子です。
りんごやレーズンでアクセントをつけたウォルドーフ・プディングは、どっしり濃厚でクリーミー。豪華客船に想いを馳せながら、クラシカルな味わいをどうぞ召し上がれ。
タイタニック号最後の晩餐を締めくくったデザートとは
りんごやレーズンが入ったバニラ風味のプディング菓子
「Waldorf pudding(ウォルドーフ・プディング)」とはタイタニック号が沈没した日の前日である1912年4月14日に、一等客用ディナーのデザートとして出されていたプディング菓子の一種です。
その詳細については船の沈没と共に失われてしまったものの、タイタニックと同じく英国のホワイトスターライン社が所有していた姉妹船・オリンピックでも同名のデザートが提供されていたそうで。
現在も運航しているクルーズ客船、セレブリティ・ミレニアム内にかつてあった姉妹船と同名のレストランでも味わうことができたらしく、メニュー表ではしっかりとその存在を確認することができます。
ウォルドーフ・プディングが劇中に直接登場することはありませんが、本作のヒロイン・ローズがタイタニックの設計者であるアンドリューズや、ホワイトスターライン社の社長・イズメイらと共にした昼食会での一幕では、イズメイがサーモンを、ローズの婚約者キャルが「ミントソースを少しかけたラム肉」を注文しているシーンがあります。
いずれもセリフのみ、ほんの一瞬のシーンですが、献立の内容については実際のタイタニックの4月12日分一等客用ランチメニューに忠実なのがすごいところ。
完璧主義者として知られ、本作の着手前にタイタニックに関するあらゆる資料を調べ上げただけでなく、自ら船が沈む大西洋で潜水調査を行ったジェームズ・キャメロン監督の手がける作品ですから当然なのかもしれませんが、もし劇中にウォルドーフ・プディングが登場していたら、きっと再現度も高かったでしょうね。
参考:https://web.archive.org/web/20130705024719/
http://www.chesterh.com/78/cruise-stories/dining-in-the-olympic-restaurant.html
https://www.paulfrasercollectibles.com/blogs/memorabilia/titanic-first-class-menu-realises-97-000-at-henry-aldridge-son
材料・調理法の考察
オリンピックレストランのメニューと同じであるなら、タイタニックで出されていたウォルドーフ・プディングは、「ダイス状にカットしたりんごとレーズンを加え、ナツメグ少々で香り付けしたクリーミーなバニラプディング」という感じ。
流行りのデザートという訳でもなかったのか、当時の料理本を調べてみてもなかなか名前は出てきませんが、アメリカのカルバリー長老派の婦人援助協会によるレシピ本『Cook Book Compiled By Ladies' Aid Society Of Calvary Presbyterian Church, Springfield, Missouri』でその名を見つけることができました。
ただ、この婦人援助協会によるレシピはかさ増しとしてパン粉なども使われた、かなり素朴な雰囲気のお菓子。
タイタニックやオリンピックで出されていたウォルドーフ・プディングは一等船室の乗客向けに用意されたデザートですから、こちらがベースだとしても、もっと洗練されたものだったはずです。
具材にりんごとレーズンを使うのは決定だけれど、プディング生地についてはちょっと作り方を変えた方が良さそう。
タイタニックの一等客用メニューを監修したのは近代フランス料理の父とも言われるオーギュスト・エスコフィエなので、プディングについても彼の著作『Le Guide culinaire』を参考にしましょうか。
ちょうどバニラプディングにあたる「CRÈME A LA VANILLE, MOULÉE」があるため調べてみると、彼のプディング生地の作り方は現代のものとそう変わらない様子。湯煎焼きするのが大きなポイントで、プリンってこの頃から完成されていたお菓子だったんですね。
プディング生地の方向性も決まったので、今回もさっそくスタートです。
参考:https://www.google.co.jp/books/edition/Cook_Book/LnAEAAAAYAAJ?hl=ja&gbpv=0
https://openlibrary.org/books/OL24167463M/A_guide_to_modern_cookery
ウォルドーフ・プディングを作ってみよう
タイタニック|豪華客船での最後のデザート「ウォルドーフ・プディング」
材料(180mlのココット型約4個分)
- プディング生地用
卵_2個
生クリーム_1カップ
牛乳_1/2カップ
砂糖_50g
バニラエッセンス_5-6滴
塩_少々
- フィリング用
りんご_1/2個
レーズン_40g
バター_10g
砂糖_大さじ1
水_大さじ1
レモン汁_小さじ1
ナツメグ_3-4振り
作り方
- フィリングの準備
- りんごは皮を剥いて1cm角にカットし、レーズンも細かく刻んでおく
- 小鍋に砂糖と水を入れ、強めの中火で濃いあめ色になるまで加熱する
- 砂糖がカラメル状になったら火を止めてバターを入れて混ぜ、りんごとレーズンも加えて弱火で10分ほど炒め煮する
- りんごがしんなりしたらナツメグを加えて混ぜ、4等分してココット型に入れておく
- プディング生地の準備
- 耐熱容器にクリームと牛乳を入れ、600Wのレンジで1分半ほど加熱して温めておく(70℃程度が目安)
- オーブンを150℃で予熱しはじめる
- ボウルで卵を溶きほぐしてコシを切り、砂糖を加えて泡立てないようすり混ぜる
- ボウルに1を4-5回ほどに分けて加えながら混ぜ、なめらかになったらバニラエッセンスを入れる
- 茶こしなどで濾しながら、プディング生地をココット型に注ぎ入れる
- 天板にお湯を張り、アルミホイルを被せてオーブンの下段で40分ほど湯煎焼きすれば出来上がり
食後のヒトコト
卵とクリームをふんだんに使った濃厚なプディングに、カラメル煮にしたりんごとレーズンのフィリングも存在感があります。
香り付けのナツメグも、クラシカルな重さを出すのに一役買っているなという感じ。
甘さを抑えた現代的なデザートの真逆を行く仕上がりになりましたが、オートキュイジーヌ(宮廷料理がベースの伝統的な高級料理で、全体的にこってり濃厚)の影響が強かった時代の再現料理としてはこれが正しいのかもしれません。
ただナツメグについては、正直結構くどく感じる人もいそう……。スパイスの類があまり得意でないなら、香り付けにはバニラだけ加えるのがいいかもしれませんね。