C.S.ルイスによる『ナルニア国物語』は、イギリス児童文学の傑作の一つ。ディズニーによって映画化もされており、迫力のある映像で話題になりました。
今回は本作に登場する魔法の国ナルニアの住人、タムナスさんの素敵なお茶のメニューを再現。ペベンシー兄妹の末っ子・ルーシーが目を輝かせた献立とは、いったいどのようなものでしょうか?
ルーシーを魅了したお茶のもてなしとは?
半人半獣のフォーン・タムナスさんによる素敵な3種類のトースト
衣装だんすの中と繋がった魔法の国ナルニアでペベンシー家の末っ子・ルーシーが最初に出会ったのは、山羊の足と角を持つフォーン(半人半獣の牧神)のタムナスさん。
見慣れない姿に驚くルーシーですが、タムナスさんはとても紳士的で物静かなフォーン。
暖かな暖炉に蔵書がぎっしりの書棚を備え、さっぱりと手入れの行き届いた岩穴の住居に案内されたルーシーは、素晴らしいお茶のもてなしを受けます。
それは、すてきなお茶のもてなしでした。
やわらかくゆでられたきれいな茶色の卵がめいめいに一つずつ出ましたし、トーストは、小イワシをのせたもの、バターをぬったもの、ミツをつけたものがありました。
引用:C.S.ルイス・瀬田貞二訳『ライオンと魔女―ナルニア国ものがたり〈1〉』岩波少年文庫
劇中のシーンだと二人が食べていたメニューがはっきり映されることはないのですが、原作では上のような感じ。
この他にお砂糖のかかったケーキも用意されていたとのことですから、たしかにちょっとしたものですね。
材料の考察
トーストとともにいただく、なんともイギリスらしいお茶の時間の献立。今回のポイントはやはり、小イワシ(サーディン)のトーストでしょう。
サーディンをパンに載せたり挟んだりするメニューは昔も今もよく食べられているようで、上品なものだと例えばロンドンのピカデリーにある五つ星ホテル、リッツ・ロンドンのアフタヌーンティー本にもレシピが掲載されています。
リッツのレシピですとサーディンはフォークで潰してペースト状にし、レモンをひと絞りしてパンに挟んでサンドウィッチにしたものとのこと。
アフタヌーンティーの席で出されるものなので、サーディンの油が垂れたりせず一口でスマートに食べられるよう、一手間加えてサンドウィッチにしているわけですね。
ただ基本的には缶詰や瓶詰のイワシを使う簡単料理ですから、もちろん各ご家庭でも好んで食べられているわけで。
ナルニア国物語の舞台である第二次大戦中より前の料理本ですが、以下の本にも地方ごとの特色あるサーディンメニューがいくつか掲載されています。
ワイト島風のサーディンサンドに刻んだゆで卵を加えたエセックス風、カレー風味のケント州風サーディントーストとバリエーションはさまざま。
タムナスさんのお家で出されそうなメニューを選ぶならどれだろう……?
彼は穏やかで知的なフォーンという印象ではありますが、そこまで凝ったものではない気がするなあ。
ゆで卵はメニューとして別に出ているから卵を加えたレシピは違うとして、凝りすぎず素朴な雰囲気のものがそれっぽい。
掲載されているレシピはどれも美味しそうで悩みますが、熱々にしたイワシにカイエンペッパーと塩をひとつまみし、レモンを振ったチェシャー州スタイルのサーディントーストは良いかも。
ごくシンプルだけれど、唐辛子やレモンでイワシのうま味が引き立って美味しそう。いい感じです。
参考になるレシピが見つかったので、さっそくスタートしていきましょう。
タムナスさん風のトーストを作ってみよう
ナルニア国物語|タムナスさんとお茶を
材料(2人分)
- トースト3種用
食パン(10枚切りなどなるべく薄いもの)_3枚
オイルサーディン缶_1缶(100g程度)
レモンスライス_4枚程度
チリペッパー_適量
粗挽き黒こしょう_適量
バター_適量
はちみつ_適量
- 半熟卵用
茶色の卵_2個
- その他の材料
紅茶_お好みで
作り方
- トーストの準備
- 食パンは4等分にカットし、トーストして焼き色を付けておく
- サーディンを耐熱の器などに移し、少量のチリペッパーを振りかけてトースターで5分ほど焼き、熱々にしておく
- 焼き上がったトーストの1枚分にサーディンとレモンスライスを載せ、粗びき黒こしょうを振る
- 残りの2枚分にはそれぞれバター、はちみつを塗っておく
- 半熟卵の準備
- 卵(冷蔵庫から出したてを使用)は沸かしたお湯で4分ほど茹で、冷水に取っておく
- 仕上げ
- トーストを皿に盛り合わせ、卵をエッグスタンド(おちょこやショットグラスでも代用可)にセット。おいしい紅茶を淹れて召し上がれ
ポイント
- 半熟卵はごくごく柔らかい仕上がり。食べる際にはエッグスタンドに立てた卵の上部をスプーンで軽く叩いて殻を取り除き、スプーンですくっていただきます。
食後のヒトコト
うま味がぎゅっと凝縮したサーディンにレモンと黒こしょうが効いて、しみじみと美味しい……。
濃いうま味が染み出たまろやかでコクのあるオイルをトーストが吸い込んで逃さず、口の中に美味しさが留まる感じです。
いい大人だって一つまた一つと手が伸びてしまうのですから、食べ盛りの子どもならきっとたまらなかったはず。
ましてや作中の時代は食糧の不足していた戦時下。疎開中の彼らが好きなものを自由に食べる機会はそう無かったでしょうから、なおさらです。
なお作中でペベンシーの兄妹たちが食べ物に釣られちゃうシーンだと他に、ターキッシュ・デライト欲しさに白い魔女について行くエドマンドのエピソードが有名ですよね。
子どもらしい危なっかしさだなあと思うのと同時に、砂糖をたっぷり使ったお菓子なんて超がつく贅沢品の時代。ふらふらとついて行っちゃった彼を責められないなという気もします。
ちなみにターキッシュ・デライト(ロクム)を日本で買うなら、まず近くにハラール系食品の専門店があるか探してみるのがおすすめ。
ターキッシュ・デライトはトルコのお菓子なので、トルコの食材を扱っているハラール系のショップなら手に入ることが多いと思います。
実店舗でなくともオンライン通販を行っているショップが大多数のため、興味があるなら専門店の通販で取り寄せてみるのもいいかもしれませんね。