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ナポレオンの勝負飯|鶏のマレンゴ風

1796年の3月9日は、ナポレオン・ボナパルトが最初の妻であるジョセフィーヌと結婚した日。

ナポレオンの結婚記念日にちなんで作るのは、彼が勝負事の前に好んで食べていたという逸話が残る鶏肉の煮込み料理「鶏のマレンゴ風」です。

勝利を呼ぶ皇帝お気に入りの鶏肉料理とは

ナポレオンの料理人デュナンが作ったという「鶏のマレンゴ風」

現在広く親しまれている「鶏のマレンゴ風(Poulet Marengo・Pollo alla Marengo)」とは、ソテーした鶏肉にトマト・ザリガニ・マッシュルームなどを加えて煮込み、揚げパンや目玉焼きを添えていただくお料理。

欧米はもちろん、日本でも鶏肉を使った西洋料理の一つとして愛されており、明治期に出版された料理本にも登場。

グリーンピースとポテトを添えた「チツキンマレンゴー」として紹介されており、古くからグルメたちの舌を楽しませてきたことが窺い知れます。

参照:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/848998/69

戦場でデュナンが作ったとする逸話は創作?!

鶏のマレンゴ風については、「ナポレオンお抱えの料理人・デュナンがマレンゴの戦いに従軍した際、戦場で手に入る食材をかき集めて作った即興料理」というのがよく知られている話でしょうか。

とはいえ、この話が事実かという点には懐疑的な声があるようで。

料理史の研究者であるピエール・ルクレルク氏のインタビュー記事によると、現在広く知られる鶏のマレンゴ風誕生のエピソードについては、1800年のマレンゴの戦いより50年以上後の1858年に作られた口述詩が元になっているとのこと。

当時の歴史書に書かれたナポレオンの短い逸話を基に、テオフィル・ルプティなる人物が創作した口述詩が広まり、それが定着して今に至った可能性が高いというのです。

つまり歴史上の事実に基づいた話というよりは、作られた伝説のようなものだということですね。

デュナンがナポレオンに仕えたのはマレンゴの戦い後の1802年からだったという説もあるようですし、鶏のマレンゴ風がナポレオン由来の料理として各地のレストランや料理本に盛んに登場したのも、これ以降のことである様子。

史実の多くは地味なものですから、派手に脚色された口述詩の方が広まってしまった……というのが実際のところなのかもしれません。

参考:https://www.news.uliege.be/cms/c_10378370/fr/napoleon-et-le-poulet-a-la-marengo#_ftn7

http://www.theoldfoodie.com/2006/06/chicken-marengo-story_14.html

材料・調理法の考察

さて、デュナンが考え出したものではなかったとしても、鶏のマレンゴ風がナポレオンの功績を称えて考案された料理に変わりはありません。

そうなると気になるのが、レシピが生まれた当時はどんな食材を使っていたのかな? という点。

これについては、当時の美食家かつ最初期の料理ジャーナリスト・ブリス男爵(Léon Brisse)の著作が参考になりそうです。

ブリス男爵の料理本によると、鶏のマレンゴ風を作る際に必要な材料は以下の通り。

調理法としては鶏肉をソテーして、別に作っておいたイタリアンソースで煮込んで仕上げるという形で、現在の一般的な鶏のマレンゴ風の作り方とほぼ同じです。

大きく違うのは、トマトもザリガニも含まれていないことですね。

  • 鶏のソテー用として
    • 鶏肉
    • マッシュルーム
    • トリュフ
    • ミックスハーブ
    • オリーブオイル
    • 目玉焼き
    • 揚げパン
  • 煮込み用イタリアンソースの材料として
    • バター
    • エシャロット
    • パセリ
    • マッシュルーム
    • 白ワイン

鶏のマレンゴ風といったらトマトとザリガニ代わりの甲殻類、特にエビを添えたレシピをよく目にしていたので、ちょっと驚きです。

ただマレンゴ風については、イタリアのピエモンテの郷土料理がナポレオンの伝説に吸収されたという説も。

ピエモンテの「Pollo alla Marengo」については鶏肉のみでトマトを加えない・加えても少量というレシピも多いので、こちらはその流れを汲むものなのかもしれません。

おおよその材料が分かったところで、レシピの組み立て開始。

「ミックスハーブに何を使うか」という点が味に大きく影響しそうですが、トマトの有無に関わらず、現代のマレンゴ風のレシピだとハーブはパセリのみというものが多い印象です。

当時より新鮮な鶏が手に入りやすくなっているので、パセリのみでも美味しいということなのでしょうか。

きのこの香りとうま味も加わりますし、シンプルに作れるならそれに越したことはなし。

ハーブはパセリのみ採用、トリュフは家庭でも手に入りやすいきのこ類に代えることで決定。さっそく作りはじめましょう。

鶏のマレンゴ風を作ってみよう

ナポレオンの勝負飯|鶏のマレンゴ風

材料(2-3人分)

  • イタリアンソース用
  • マッシュルーム_3個

  • パセリ_1枝

  • 玉ねぎ_1/8個

  • バター_20g

  • コンソメ_1/2個

  • 白ワイン_1/2カップ

  • 水_1/2カップ

  • 塩_ひとつまみ

  • 鶏肉のソテー用
  • 鶏手羽元_8本(450gほど)

  • マッシュルーム_5-6個

  • エリンギ_1本

  • オリーブオイル_大さじ1

  • 小麦粉_大さじ1

  • 塩こしょう_適量

  • その他の材料
  • オリーブオイルを塗って焼いたバゲットかバタール_お好みで

  • 目玉焼き_お好みで

作り方

  • イタリアンソースの準備
  • マッシュルーム・玉ねぎ・パセリは全て細かなみじん切りにしておく
  • 大きめの浅鍋でバターを温め、1を中火で炒める
  • 野菜がしんなりしてきたら白ワイン・水・塩・コンソメを加え、ひと煮立ちすればソースの完成
  • チキンソテーの準備
  • マッシュルーム・エリンギはスライスしておく
  • 鶏肉は塩こしょうで下味をつけ、小麦粉をまぶしておく
  • フライパンでオリーブオイルを温めて鶏を皮から焼き、表面がきつね色になるまで中-強火で焼き上げる
  • 肉に火が通ったらイタリアンソースの鍋に3を入れて中火にかけ、沸騰したら蓋をして弱火で20分ほど煮込む
  • きのこを加えて再び10分ほど煮込み、塩こしょうで味を整えれば出来上がり。オリーブオイルを塗ってトーストしたパンと、目玉焼きを添えて召し上がれ

食後のヒトコト

イタリアンソースに滲み出たきのこのうま味が、香ばしく焼き色をつけたチキンと相性抜群。

パセリの香りも素晴らしく、半熟の目玉焼きとこんがりトーストしたバゲットでボリュームもたっぷり。

ナポレオンは身の回りのことに無頓着で食事中もよく食べこぼしていたという話がありますが、彼でなくとも周りを気にせずかじりつきたいほどの美味しさです。

鶏のマレンゴ風については揚げパンが付きものなので今回はオリーブオイルをかけてトーストしたものの、ソースを吸わせて食べるなら、パンは揚げたり焼いたりしない方がいいかも。

それにしても本当に風味がよく、ソースも残らず平らげたくなるようなお料理です。

史実はどうあれナポレオンが勝負事の前に好んで食べたものとして、長く愛されてきたのも納得がいくなあ。

カツ丼のような勝負飯のひとつとして、大事な試験やプレゼンの前夜などに食べて験を担いでみる……というのもいいかもしれませんね。

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  • この記事を書いた人

宵闇

作者の心情や時代背景などを頭でっかちに考察しつつ、物語や歴史に登場する料理を作っています。お仕事のご依頼等については、お問い合わせフォームもしくはinfo@saigengohan.comよりどうぞ。

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