カナダのスリラー作品『ガール・イン・ザ・ミラー』に登場するのは、アメリカやイギリスなどで食べられているトラディショナルな朝食メニューの一つ、レバーアンドオニオンです。
オリビア・ハッセーの愛娘、インディア・アイズリー演じる主人公があまりにも美少女な本作に意味ありげに登場するこちら。果たしてどんな味がするのでしょうか……?
朝食に意味ありげに登場するレバーの料理とは
イギリスの伝統料理?レバーアンドオニオン
さてさてこちらの作品、主役のインディア・アイズリーがとにかく美少女。彼女演じる気弱な「マリア」が妖艶な「アイラム」に変わっていく後半にかけてのエロティックな感じは見ものなんですが、それはとりあえず一旦置いておくとして。
今回注目するのは、マリアたち一家の朝食として登場するメニューです。マリアの父は成功した美容整形外科医であるらしく、見るからにゴージャスなお宅のキッチンでは朝からケールの入ったヘルシーなグリーンスムージーやら、高価そうなエスプレッソ・マシーンで淹れたコーヒーやらがスタンバイ。
そして朝食のメインとして出されていたのがレバー。目玉焼きでもベーコンでもソーセージでもなく、レバー。大きくて新鮮そうなレバーがフライパンでじゅうじゅうとソテーされていました。
日本人的な感覚だと朝食にレバー? となりますが、英語圏のレシピサイトなどを眺めてみるとそう珍しいことでもない様子。
上の写真のように玉ねぎと一緒に焼いたレバーにベーコンやマッシュポテトなどを添えた料理は「レバー&オニオン」の名で、イギリスを中心にアメリカやカナダなどで伝統的な朝食メニューとして知られているのだそうです。
ただし物語の序盤から、レバーは2回も朝食に登場しています。季節は冬のまま変わったという描写もないため、劇中での時間もそれほど経っていないでしょう。肉食文化の国とはいえ、レバーってそんなに短いスパンで食べるもの……?
マリアの母エイミーは豆腐ステーキなども夕食に取り入れる健康意識の高い奥様のようですが、たとえレバーが栄養満点なパワー・メニューだったとしても、ちょっと登場回数が多い気はしちゃいますね。
材料の考察
ところでレバーアンドオニオンはフィッシュ・アンド・チップスやコテージパイのような伝統料理ではありますが、人気はというと正直あまりなかったりします。
おばあちゃんの家で出てくるような古臭いイメージの料理……なんて言われてしまうこともあり、伝統的な50の英国料理についてイギリスの調査会社が行ったアンケートでも、レバーアンドオニオンを好む人は5割以下なのだそう。
羊の胃袋に内臓を詰め茹でた「ハギス」や、悪名高い「ウナギのゼリー寄せ」(これなんて好きな英国人はわずか6%とのこと。嫌がられてますね。)と同じランクに入れられています。
つまり伝統的な料理として知ってはいるけれど好んでは食べないし、食卓に登場することもあまりないメニューという位置付けなんですね。
まあ日本でもレバニラって好き嫌いが明確に分かれる料理ですから、レバニラよりもっとレバーの主張が強いレバーアンドオニオンが好かれにくいのも無理からぬことなのではないかと思われます。
映画の舞台であるカナダもイギリスの文化圏。畜産が盛んな国なのでちょっと状況が違うかもしれませんが、カナダの人が特にレバー好きという話も聞かないので、先ほどのアンケート結果から大きく離れることはないと考えて良さそう。
そうなると、マリアのご家庭で頻繁にレバーが食べられているのはやっぱりちょっと不思議。これは実際に作って確かめてみなくては……!
レバーアンドオニオンを作ってみよう
ガール・イン・ザ・ミラー|レバーアンドオニオン
材料(1人分)
豚レバー_1枚(200g程度)
玉ねぎ_中1/4個
にんにく_1/2片
白ワイン_大さじ1/2
オリーブオイル_大さじ1/2
ハーブソルト_ひとつまみ
こしょう_適量
- 付け合わせ用
茹でたいんげん_お好みで
ベイクドトマト_お好みで
作り方
- レバーは大きめの一口大にカットして30分ほどミルクに浸し、キッチンペーパーで水気を拭き取っておく
- 玉ねぎは繊維を断つよう4mm程度の薄切りにスライスし、にんにくはみじん切りにしておく
- フライパンにオリーブオイルを加えて熱し、強火でレバーの両面に焼き色をつけたら一旦取り出しておく(後で再度加熱するため、中まで火が通っていなくてOK)
- 玉ねぎとにんにくを加え、中火で5分ほど炒める
- 玉ねぎがきつね色に色づき、しんなりしたらレバーを戻し入れてハーブソルト・ワインも加え、蓋をして3分ほど蒸し焼きにする
- こしょうを振って味を整えたら出来上がり。イギリス風の朝食というイメージで、ベイクドトマトと茹でたいんげんを添えて召し上がれ
食後のヒトコト
うーん、とってもレバー。めちゃくちゃレバー。これ、レバー駄目な人は絶対食べられないですね。予想はしていましたが、がっつり臓物を食べている感があります。気持ち厚めにカットしたとはいえ、にんにくやハーブ多めでもレバーが主張する……。
となると、やっぱり気になるのが劇中の朝食。件の調理シーンでは玉ねぎも香草も加えずそのまま焼いただけだったので、クセの強さはこの比ではないはずです。焼いただけのレバーだしヘルシーで栄養あるんでしょうけれど、朝からこれはちょっと遠慮したいかも。
そもそも2回登場する朝食の場面で、レバーを口に運んでいた描写があるのは主人公マリアの父だけなんですよね。マリアの母も調理しているところは確認できますが、当のマリアに至っては明らかに別のもの(シリアルとベーグル)しか口にしていません。
マリアの父ダンは仕事場で堂々と不倫をしており、望んでもいない整形手術を娘の誕生日にプレゼントしようとする割とアレな人なのですが、家にも学校にも居場所がないマリアの朝食が乾いたシリアルのみなのに対して、社会的地位も財産もあるダンの朝食が血の滴るようなレバー(肝臓)だというのは注目すべきところ。
肝臓はその自己再生力の高さから古来より生命を司る要として考えられてきた臓器で、例えばグリム童話の白雪姫で姫を殺した証にと継母が狩人に要求したのは肺と肝臓でした。また、ギリシャ神話のプロメテウスが人間に火を与えた罰として鷲に食われ続けたのもやはり肝臓。
その肝臓を朝から(しかも頻繁に)食べるダンは精力に満ちた人物として描かれている訳ですが、一方の娘が口にするのがほんのわずかのシリアルというのも対照的で、「気力がなく弱い娘」と「エネルギッシュで強い父」というコントラストをエグいくらいに浮かび上がらせているなあと。
食べ物を通じて示される対比は朝食のメニューに限ったことでもなく、のちにマリアと入れ替わったアイラムがダンと訪れるチャイニーズレストランのシーンでも顕著というか露骨です。
ネタバレになりそうなのであまり詳しくは触れませんが、付け合わせの野菜とともに美しく盛り付けられた肉料理をナイフとフォークで食べるダンに対し、アイラムがオーダーしていたのが「生きたままぶった切ったカニ入りのスペシャルサラダ」。しかも彼女はこれを手づかみでむさぼり食っていたんですよね。
これまでの弱く大人しいマリアから強く獰猛なアイラムに入れ替わったことで生じた力関係の変化が、父娘それぞれが注文した料理や食事のスタイルを通じても示されていたのは興味深いポイントでした。
このように食べ物ひとつとっても深掘りできるポイント満載の本作ですが、これに限らず劇中には至るところに考察の余地がある要素が散りばめられている様子。
クセのあるレバーアンドオニオンと同じく含みたっぷりですから一つ一つのシーンを意識して、じっくり解き明かすのも楽しそうです。