今回再現するのは、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズに登場するエルフの携行食・レンバス。魔法がかかったエルフの焼き菓子を、本作に影響を与えた北欧やケルト神話世界で特別な意味を持つ材料で作っています。
ヘーゼルナッツやくるみも入って満足感ばっちり。中つ国での冒険を見届けるなら、このレンバスをおともにしてはいかが?
フロドたちに渡されたエルフの携行食とは
ロスローリエンの奥方秘伝!神秘の力を持つ魔法の焼き菓子
『ロード・オブ・ザ・リング』エクステンデッド版と『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』冒頭などに登場するレンバスとは、ロスローリエンを治めるエルフの奥方・ガラドリエルが主人公のフロドたちに渡した旅行用の携行食。
レンバスを授けられるシーンは1作目のエクステンデッド版でしか見ることができないのですが、緑の葉に包まれた、大きな四角いビスケットのような食べ物ですね。
このレンバス、エルフの技をもって作られた食べ物であるため普通の焼き菓子ではなく、神秘の力を秘めているのだそう。
エルフのレゴラスがレンバスを少しかじって、「大人の男の胃を満たすには、一口で十分」と言うシーンがあるように、ちょっぴりでもお腹が満たされる魔法がかかっているようです。
『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』では、ホビットのサムが手持ちの食糧がレンバスしかないことにトーンダウンしていましたが、「よその食べ物は嫌いだけど、エルフのこれだけは悪くない」とも言っているので、きっと味も良いんでしょうね。
材料・調理法の考察
原作者のJ・R・R・トールキンは敬虔なローマン・カトリック信者であるため、奇跡の力を秘めた食品のイメージについては、おそらく聖書に登場する神からの贈り物「マナ」も頭にあったことでしょう。
劇中や原作でゴラムやモルドールのオークたちがレンバスを嫌がるという描写があるため、少なくともマナと同じく「聖なる食べ物」「祝福された食べ物」という性質は持っているのだろうなと。
ちなみに聖書に登場するマナについてはその正体に関してさまざまな議論があるものの、どのような食品であるのかが窺える記述があります。
出エジプト記
16:31 And the house of Israel called the name thereof Manna: and it was like coriander seed, white; and the taste of it was like wafers made with honey.
引用:https://www.gutenberg.org/files/10/10-h/10-h.htm
民数記
11:7 And the manna was as coriander seed, and the colour thereof as the colour of bdellium.
引用:https://www.gutenberg.org/files/10/10-h/10-h.htm
11:8 And the people went about, and gathered it, and ground it in mills, or beat it in a mortar, and baked it in pans, and made cakes of it: and the taste of it was as the taste of fresh oil.
聖書から分かるマナの特徴は、「コリアンダーの実やブデリウム(樹脂の一種)のように白く、蜜を入れて作った薄焼きパンのよう」 とのこと。人々はこのマナを拾い集めて臼で挽いたりついたりして焼き上げ、新鮮な搾りたての油のような味がする菓子にしたのだそうです。
本作のオンラインゲーム版で登場するレンバスの材料も大麦・クリーム・はちみつなので、マナのイメージも踏まえていそう。
マナについては現在もカトリック教会のミサなどで使用される聖餅に繋がるものですから、レンバスを再現するならゲーム版の材料を基本に、聖餅の作り方も取り入れるといいのかな。
ところで日本のアニメやラノベ作品などでよく見るエルフというと、肉や魚はもちろんミルクや卵も口にできない・しないキャラクターが多い気がしますが、この傾向っていつからあったのでしょうね?
少なくともトールキン作品の各エルフ族については明確に動物性食品を避けている描写はないと思いますし、闇の森のエルフたちに至っては狩りをするので、お肉も普通に食べていると考えた方が自然なんだよなあ……。
古今東西のエルフ像の違いはまあ置いておくとして。ゲーム版に登場した食材にマナの特徴も取り入れてレンバスを作るにしても、もう少しカロリーのあるものにしないとハードな旅の携行食としては物足らなそうです。
基本的には焼き菓子なので生地をしっとりサクッとさせるバターや植物油に、ナッツのような木の実も入るとそれっぽい。
レゴラスの言うように「一口で満腹」は大袈裟にしても、もう少しカロリーのある食材を加えたいですし、レンバスは指輪にまつわる苦難の多い旅をする彼らに、強力な魔力を持つガラドリエルが授けた食べ物。
さらに一歩踏み込んで、エルフの祝福的な要素もプラスしたいところです。
ちなみに、作中に登場するエルフたちの言葉として有名なクゥエンヤ語とシンダール語。2つのエルフ語については文献学者であり、人工言語の創造にも強い関心を寄せていたトールキン先生の創作によるオリジナル言語ですが、クゥエンヤ語は主にフィンランド語、シンダール語はウェールズ語をベースに作られたものだそうです。
となると、油やナッツも北欧やケルトの文化圏で特別な意味のある植物から取れるものが妥当かな。
よし決めた。油にはケルト文化圏で秋分の日の樹木としてあてられ、バランスを司るとされるオリーブの油を。
ナッツにはケルト世界において、その枝に宇宙すべての知恵が宿り、実を食べた者は英知の力と霊感を得るとされるハシバミの実=ヘーゼルナッツを。ハシバミは北欧神話に登場する雷神・トールの木ともされるので、よりぴったりな感じです。
これに、ケルトの占星術で10月24日~11月11日の守護木であるくるみも入れましょうか。
香り付けは、常緑樹であることからケルト語で緑色を意味する「laur」が語源の月桂樹(ローリエ・ベイリーフ)を加えることにして。
あとは小麦粉に塩も少し入れて微調整すれば、焼き菓子としての仕上がりも良くなりそう。
ここまで全ての食材を加えると、北欧神話やケルト神話における聖なる数字「3」が3つ集まった究極の数字「9」個の材料が入ることになるので、エルフのお守り的な要素を満たせるかな?
もろもろ決まったので、さっそく始めていきましょうか。
参考:https://lotro.fandom.com/ja/wiki/Lembas
https://folk.uib.no/hnohf/quenya.htm
https://folk.uib.no/hnohf/sindarin.htm
https://www.crespo-olives.com/pages/the-olive-tree
https://irishurns.com/irish-trees-in-mythology-and-folklore/
https://ireland-calling.com/celtic-mythology-hazel-tree/
http://www.exploreastrology.co.uk/celticastrology.html
レンバスを作ってみよう
ロード・オブ・ザ・リング|9つの材料を使った究極のレンバス
材料
オートミール_60g
薄力粉_60g
ヘーゼルナッツとくるみ_60g(割合はお好みで)
ローリエ_1枚
☆オリーブオイル_大さじ2
☆生クリーム_大さじ1
☆はちみつ_大さじ2
☆ 塩_ひとつまみ(親指と人差し指、中指3本の指でつまみ取りましょう)
作り方
- 小さなボウル等に☆の材料を入れ、よく混ぜ合わせて乳化させる
- ローリエを3分割程度に折りながら加え、60分ほど浸して香りを移しておく
- 薄力粉とオートミール、ナッツ類をフードプロセッサーにかけて粉状にしておく
- 2の乳化液を加え、ヘラなどで切るように混ぜ合わせて生地をまとめる
- ジッパーバッグに生地を入れ、めん棒で6mm程度の厚さに伸ばし冷蔵庫で60分ほど休ませる
- オーブンを180℃で予熱し、ジッパーバッグを切り開いて生地を手の平大にカット。表面に対角線状の切り込みを入れておく
- オーブンの中段で15分ほど焼けば出来上がり。冒険のご予定がある方は、笹や柏の葉で包んで持ち歩くのがおすすめ!
ポイント
- 生地の焼き時間や分量(粉やナッツは60gずつ、乳化液の材料も合わせて約75ml)など、登場する数字はすべて3の倍数になっていたりします。
食後のヒトコト
オリーブオイルにナッツの粉もたっぷり加えているため、噛むとさくほろっと口の中で解ける感じ。ヘーゼルナッツの香りも芳しく、食欲をそそります。
ほんのり甘い素朴な味わいで焼き菓子としてはもちろん、パンやクラッカーの代わりにもなりそう。
ボリュームもあるので、スープやサラダと一緒に朝食などにいただいてもいいかもしれません。
そうそう、本作についてはちょうど9月からAmazonオリジナルドラマ『ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪』の配信がスタートしているんですよね。
中つ国での冒険を見届けるなら、レンバスは必携のアイテム。魔法仕立てのレンバスを作って、おともにしてはいかがでしょう?