宮沢賢治が誕生した8/27に作るのは、彼の代表作ともいえる『銀河鉄道の夜』に登場する一皿。
主人公の男の子・ジョバンニが物語の中で食べている、トマトを使った料理です。
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』に登場するトマトを使った料理
ジョバンニのお姉さんが家族のために作った一皿
料理が登場するのは、ジョバンニの自宅での場面。
活版所での手伝いを終えて帰宅した彼に、お母さんが先にお食べなさいと促しています。
「お母さん。姉さんはいつ帰ったの。」
引用:https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/48222_59645.html
「あゝ三時ころ帰ったよ。みんなそこらをしてくれてね。」
「お母さんの牛乳は来てゐないんだらうか。」
「来なかったらうかねえ。」
「ぼく行ってとって来やう。」
「あゝあたしはゆっくりでいゝんだからお前さきにおあがり、姉さんがね、トマトで何かこしらえてそこへ置いて行ったよ。」
「ではぼくたべやう。」
ジョバンニは窓のところからトマトの皿をとってパンといっしょにしばらくむしゃむしゃたべました。
材料・調理法の考察
物語の序盤で少しだけ登場するお料理で具体的に書かれているわけでもないので、今回はそもそも「どんな料理なのか?」についても分からず。
トマトが使われている他は煮込みなのか炒め物なのかという点も不明ですから『銀河鉄道の夜』の世界観だけでなく、時代背景なども含めて賢治がどんな料理を想定していそうかも考えることにしましょう。
まずは調理方法の考察から。
物語の中で具体的な記述はありませんが、「パンといっしょに」食べているという部分はちょっと引っかかるところです。
スープについてはその昔、日が経ってカチカチになったパンを何とか美味しく食べるために生み出された料理。
もともとは出汁に浸されたパンの方を意味するものだったので、パンとの関わりは深いのです。※
※参考:「スープ」株式会社平凡社世界大百科事典 第2版
賢治がこの由来を知っていたかについては不明なものの、一品でもお腹が膨れる食べ物。そしてパンに合わせて食べていることも考えると、スープや煮込み系は自然な感じがします。
ちなみに貴重な油を大量に使う揚げ物はなしとして、作り置きでもそれなりに美味しいという点で炒め物も頭をかすめましたが、炒め物という調理法が普及したのは戦後の話。
世界観から考えても、伝統的な西洋の調理法では炒め物って珍しいはずですし。スープ採用ですね。
お次は材料について。こちらは以下の部分がちょっとヒントになるかも。
ジョバンニが勢よく帰って来たのは、ある裏町の小さな家でした。その三つならんだ入口の一番左側には空箱に紫いろのケールやアスパラガスが植えてあって小さな二つの窓には日覆ひが下りたまゝになってゐました。
引用:https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/48222_59645.html
この部分を読むと、ジョバンニの家ではケールを育てていることが分かります。ケールについては冬が旬ではあるものの、通年栽培ができるため食材として彼の家の食卓に登場していそう。
となると、ケールは具材として使いたいですね。アスパラも入れてみたいところですが、作品中に登場する「ケンタウル祭」については8月のお祭りとする解釈が大方のようですので、季節じゃないアスパラの出番はなしと。
トマトとケールは確定として……煮込むなら薬味とたんぱく質も考えたいところです。
ジョバンニの家庭はお父さんがラッコ猟で行方知れずになっているため、慎ましく暮らしている様子。
ラッコの毛皮は贅沢品だったので蓄えはあるのかもしれませんが、彼自身印刷所でアルバイトをしていることからも、それほど余裕はないのだろうなと。
安く手に入る動物性のたんぱく質といえば、現在であれば卵か豚か鶏でしょうか。
ただ、この物語が書かれた時代は大正の終わり頃。卵の普及に伴って価格が爆上がりしていた時代背景※があるので、いくら架空世界のお話とはいえ、堅実思考の賢治のイメージにはなさそう。卵は却下ですね。
※参考:http://www.maboroshi-ch.com/old/ata/lif_30.htm
豚や鶏の肉にしても生はそれほど頻繁に手に入るわけではなかったでしょうし、肉を使っているなら料理の名前に出てきそう。燻製や干した肉であれば出汁として少し加えていてもおかしくないと思うので、再現に使うのはベーコンがいいかな?
西欧的な世界観なのでチーズも不自然ではなさそうですが、チーズも日本で普及したのは戦後なので、やっぱり燻製肉・ベーコンで決定です。
薬味についてはネギ類が定番ですが、玉ねぎはもちろん長ネギも同じ種のリーキが西洋にもあるため、どちらでも良いということで。
本ブログのテーマは「手に入りやすい材料でできるだけ作品に寄せる」なので、このへんはアバウトでOK。厳密にしすぎると何事もよろしくありませんし。
さあ、これで調理法・材料についても出揃いました。
- トマト
- ケール
- 長ネギもしくは玉ねぎ
- ベーコン
「トマトで何かこしらえたもの」を作ってみよう
今回の材料は以下の通り。3人分なのはジョバンニとお母さん・お姉さんの分だからですね。
慎ましい暮らしをしているジョバンニ宅のごはんということで、全体に量は控えめ。副菜として添えるのにちょうどいいかと思います。
でもトマトやケールの分量で味が大きく変わるような繊細な料理でもないので、メインにする場合はお腹の空き具合に合わせて具材の量はお好みで調整を。
銀河鉄道の夜|トマトで何かこしらえたもの
材料(少なめ3人分)
カットトマト 1/2缶
サラダケール 3-4枚
長ネギ 20cm分
ベーコン 2切れ
水 1カップ
塩こしょう 適量
作り方
- ケールはざく切り、長ネギは4cmほどの縦切り、ベーコンは2cm幅の細切りにしておく
- 鍋に少量の油(分量外)を引いてベーコンを焼き油を出し、長ネギを炒める
- 長ネギがしんなりしたら、カットトマト・水・塩ひとつまみを加えて10分ほど煮込む
- 最後にケールを入れ、火が通ったら塩こしょうで味を整えて出来上がり
食後のヒトコト
トマトのうまみに縦切りでとろシャキの長ネギ、そしてケールのぎゅっと詰まった濃い味がアクセントになってます。
フォルコンブロートみたいなどっしり酸味のあるライ麦のパンにバターを付けて食べたら合うだろうなあ……(ジョバンニのお家だとバターは贅沢品ぽい感じがしますが)。
クセのない味わいなので、和食の副菜にしても目先が変わって良さそう。
それにしても大正時代にはトマトもケールも一般に普及していませんでしたが、教えていた農学校で栽培していたこともあって、賢治は西洋野菜に造詣が深かったようですね。
特にトマトは好物だったらしく、彼の作品にたびたび登場しています。食材に注目しながら物語を味わえば新たな発見があるかも? また読み返してみるのもいいかもしれません。