1934年の1月18日は『スノーマン』や『風が吹くとき』で有名なイラストレーター、レイモンド・ブリッグズの誕生日。
この日にちなんで作るのは、彼が自分の両親の人生を描いたアニメーション映画『エセルとアーネスト ふたりの物語』に登場するティーサンドウィッチです。
VEデーを祝うごちそうとは
パーティーの主役は持ち寄りの素朴なサンドウィッチやお菓子
『エセルとアーネスト ふたりの物語』はその名の通り、イラストレーター・絵本作家であるレイモンド・ブリッグズが自身の両親、エセルとアーネストの人生を綴った物語。
牛乳配達員のアーネストとハウスメイドのエセルが出会って結婚し、息子であるレイモンドが生まれた1934年は、間もなく第二次世界大戦がはじまるという頃。
一家も戦禍に巻き込まれ、学童疎開でレイモンドと離れ離れになったり空襲で家を破壊されたりと大変な思いをしますが、やがて戦争も終結の時を迎えます。
今回再現するサンドウィッチが登場するのは、連合国がナチスドイツに勝利したことを祝う欧州での終戦記念日「VEデー(Victory in Europe Day=ヨーロッパ戦勝記念日)」の席でのこと。
現在もVEデーにはサンドウィッチやスコーンなどを持ち寄ってご近所さんたちとパーティーをするのが慣わしですが、劇中でも通りに大きなテーブルと椅子を並べ、持ち寄りのごちそうを食べるシーンが描かれています。
材料の考察
さてサンドウィッチについては、時代ごとに流行の傾向が見えるほどイギリス人の生活に浸透した食べ物。
戦時中だった1940年代でもそれは同じでしたが、この頃は食品の多くを配給品でまかなっていた時代です。
2020年代の人気サンドイッチはフムスとファラフェル、またアボカド&チキンなどだそう
ハムやベーコンなどは配給で手に入ったものの、卵は供給が追いつかず乾燥卵、乳製品もスキムミルクやあまり質の良くないチーズなどだったそう。
野菜については劇中でも描写されているように、家庭での作物の栽培を推奨する「Dig for Victory」という政府キャンペーンのもと、各家庭の前庭などで採れたものを食べていたようです。
ただ野菜は配給の対象ではなかったため、種類や量も十分ではなかったでしょう。素人が育てた作物ですし、味の方はどうだったのかな……?
そんな時代のお話なので、戦争終結を祝うパーティーの席とはいえ、並んでいるごちそうもごく質素な印象。
画面から確認できる三角形のサンドウィッチの具も明確に何とは分かりませんが、シンプルにハムを挟んだようなものに見えます。
という訳で、まずハムのサンドウィッチは確定。
でもVEデーのごちそうなので、もう一つ二つ種類を増やしたいところ。せっかくなので時代背景に合う具がいいなあと探したら、ぴったりのものがありました。
それがこれ。当時の食糧省ご推薦、にんじんとキャベツの芯のスプレッド。
にんじんは野菜の中でも特に栄養価が高いとして子どもから大人まで食べるよう推薦されており、このスプレッドはサンドウィッチにもおすすめとの記載が。
国民に向けて配布されていたリーフレットなので、エセルが参考にしていてもおかしくありませんね。
もう一つは、BBCが戦災体験者の声をまとめたアーカイブ「BBC WW2 People's War」から。
この中のエピソードの一つに、きゅうりのサンドウィッチがちょっぴり特別な扱いをされていたことが伺える体験者エピソードがあります。
きゅうりはイギリスでも昔からサンドウィッチの具の王道中の王道なので、最後の一つはきゅうりで決まり。
参考:https://culturecheesemag.com/blog/forbidden-fromage-cheese-will-win-war/
https://www.bl.uk/learning/timeline/item107597.html
https://www.bbc.co.uk/history/ww2peopleswar/stories/39/a4357839.shtml
ティーサンドウィッチを作ってみよう
エセルとアーネスト ふたりの物語|VEデーのティーサンドウィッチ
材料
- サンドウィッチパン用(きゅうり・にんじん・ハムのサンドウィッチの計12個分)
サンドウィッチ用パン(なければ10枚切りの食パン) 6枚
マーガリンもしくはバター 30g
マヨネーズ 大さじ1強
練りからし 2cm分程度
- きゅうりのフィリング用
きゅうり 1/2本
酢 小さじ1
レモン果汁 小さじ1
塩 ひとつまみ
- にんじんスプレッド用
にんじん 1/3本
キャベツ 1-2枚程度
刻んだピクルス 大さじ3杯分(コルニションなら約2-3本)
塩 ひとつまみ
こしょう 適量
- ハムのサンドウィッチ用
ロースハム 2枚
作り方
- きゅうりフィリングの下準備
- きゅうりはパンのサイズに長さを合わせ、2mm程度の厚さにスライスしておく
- スライスしたきゅうりに塩・酢・レモン果汁を振りかけてよく和え、10分ほど置いておく
- 3の水気をペーパータオルなどで拭き取ればフィリングの出来上がり
- にんじんスプレッドの準備
- にんじんは細めの千切り、キャベツ・ピクルスはみじん切りにしておく
- キャベツ・にんじんに塩をふり、ざるに上げて10分ほど置いておく
- 野菜がしんなりしたら手でしっかりと水気を絞り、ボウルなどに入れる
- ピクルスを加えてよく混ぜ、塩こしょうで味を整えればスプレッドの完成
- 仕上げ
- マーガリンは室温に戻して柔らかくし、マヨネーズにからしを加え、からしマヨネーズを作っておく
- サンドウィッチ用パンの耳を切り落とし、マーガリン→からしマヨネーズの順に塗っておく
- サンドウィッチ用パンに具材を挟み、1組ずつラップでぴったりと包んで15分ほど置いて具材をなじませる
- ラップごと対角線状にカットすれば出来上がり
食後のヒトコト
きゅうりはティーサンドウィッチの王道的な具材ですが、やっぱり美味しいなあ。
下味をつける一手間はかかるものの、しゃっきり歯応えもよく、レモンの酸味が効いて爽やかです。
にんじんとキャベツのスプレッドは、つまりコールスローですね。からしマヨネーズとも相性がよく、ピクルスもアクセントになっていて食べやすい。
きゅうりもにんじんのスプレッドもそうですが、塩で下ごしらえをしておくと余計な水分だけでなく、特有の青臭さも軽減できます。
劇中のVEデーのパーティーでは多くの子どもたちが楽しげにテーブルを囲んでいましたが、野菜嫌いのお子さんも、こうして下処理をした野菜なら進んで食べてくれるかもしれません。
ところでこの映画には時を超えて家族に寄り添う不思議な黒猫が登場します。
このブログのマスコットでもある我が家の猫も黒い子なので、黒猫が登場するとそれだけで親しみを感じてしまう……。
傍らにいる黒猫の温かみを感じながら、今回もごちそうさまでした。